<< 前へ  次へ >>  更新
152/152

リツハルドと義父の、畜産改革計画?

ジークの里帰り編くらいの、ジーク父とリツのエピソードです

 今日はお義父さんと、畜産農家の家を訪問する。

 のどかな草原を、二人乗りの馬車で進んでいた。

 目的は、家畜の見学。

 来年から、畜産の規模を拡大するらしい。何を飼育するか迷っているようで、今日、知り合いの畜産農家で家畜を見せてもらうようだ。

 今までメインで飼育していたのは豚。他に、牛を少々、羊や山羊は趣味程度だったらしい。


「リツハルド君のところは、トナカイを飼っていると言っていたな」

「はい。肉にクセはありますが、寒さに耐えてくれますし、性格も大人しいです」

「なるほどな~」


 ここより雪深い地域では、トナカイを飼っているところもあるらしい。そこでは、荷物を引くのにトナカイを使っているようだ。


 お義父さんが豚以外の家畜に力を入れようと思ったきっかけは、異国の友人の一言だったらしい。

 なんでも、「この国は豚かジャガイモばかりで、飽きる!」と言われてしまったようだ。


「そんなに、豚肉料理とジャガイモだらけだろうか……?」

「まあ、食文化はいろいろですからね。自分の国に比べて、豚料理とジャガイモ料理が豊富だっただけなのでは?」

「リツハルド君は、優しいなあ」


 思い返してみれば、昨日食べた料理は、もれなく豚肉とジャガイモを使っていたような。

 朝食は、三種類のソーセージに、ジャガイモのポタージュ。

 昼食は、豚肉のカツレツシュニッツェルに、揚げジャガイモ。

 夕食は、豚肉の煮込みシチューに、ジャガイモ団子スープ。


 調理法はいろいろあるし、飽きることなく食べ続けられる。

 けれど、中にはそうでもない人がいるようだ。


「この問題はうちだけでなく、よその家でも聞くんだ。最近の異国人は、美食家が多いと」


 豚、鶏、牛、羊、鹿、鴨など、豊富な肉を使い、さまざまな調理法で作る料理が好まれるようだ。


「肉は豚が一番おいしいと決まっているのに、世知辛い世の中だよ」


 そんな話をしていたら、畜産農家の敷地内に到着した。

 やってきたのは、見上げるほどに大きな背の、筋骨隆々のおじさんであった。固い握手を交わし、家畜小屋を案内してもらう。


「最近の流行は、なんといってもウサギだろう」


 貴族の間で、絶大な人気を博しているらしい。

 ここで飼育しているのは、毛皮用品種と肉用品種だという。

 なんと、ウサギは毛皮用品としても、貴族女性から多大な人気があるようだ。


「始めは愛玩動物として人気が高かったのだが、毛並みが非常に美しく、なめらかであることから、ウサギの外套や手袋を作ってくれと、依頼が殺到したんだ」

「私は、愛犬を外套にしたいとは思わないがな」

「女の世界は、シビアなんだよ」


 ぴょこん、ぴょこんと小屋で跳ねるウサギはとっても愛らしい。飼いたくなる気持ちも、纏いたくなる気持ちもわかるような。とっても暖かそうだし。口には出さないけれど。


 続いて、肉用品種を見せてもらった。


「で、でか!!」


 肉用のウサギさんは、とんでもなく大きかった。七キロはあるという。

 先ほどの可愛らしい毛皮用品種とは異なり、佇まいもどことなく貫禄がある。

 あの寸法のウサギが領地にいたら、小躍りしてしまうだろう。


「まあ、でかければいいってもんじゃないが、晩餐会ではこの品種が好まれる」

「なるほどなあ」


 隣の小屋には、先ほどのウサギより小型の品種が飼育されていた。


「こっちは、小柄だが、肉質は最高だ。美食家の間で、高値で取り引きされているんだ」

「ほうほう」


 七キロもあるウサギとは異なり、ほっそりしていた。可食部位は、少なそうに見える。

 ただ、大きくなるまでに多大な面倒がかかるようだ。


 他にも、牛や羊、合鴨にガチョウなど、さまざまな種類の家畜や家禽を見せてもらった。

 大変、勉強になった。


 最後に、ウサギ料理をふるまってもらった。

 こんがり焼き色がついたウサギのローストである。


「わ~、おいしそう!」


 ナイフを刺した瞬間、脂がジュワッと溢れる。ソースを絡め、口に運んだ。

 皮はパリッパリ。肉はしっとりやわらかい。あっさりしているけれど、味わい深い。

 家畜だからか、臭みはほとんど感じなかった。


 パクパク夢中になって食べていたが、お義父さんは手が止まっていた。


「あの、どうかしましたか?」

「いや、小屋でウサギと目が合ってしまって。ウルウルした目で、私を見つめていたんだ」

「そ、そうだったのですね」


 気の毒になって、食べられないという。

 せっかく用意してもらった命なので、責任を持っていただいた。


 そんなわけで、畜産農家での見学会は終了となる。

 帰りがけは、俺が馬車の手綱を握っていた。

 お義父さんはというと……七キロもある巨大ウサギを胸に抱いている。

 先ほど目が合ったという、ウサギさんだ。

 買い取って、連れて帰ることになった。


 もちろん、これは肉用のウサギではない。

 お義父さんが、今日から飼育するようだ。

 個人的には食用ウサギにしか見えないが、お義父さんには愛らしい愛玩用のウサギに見えているようだ。


「リツハルド君、このウサギの名前は、何がいいと思う?」

「そ、そうですね……」


 空を見上げたら、太陽があかね色に染まりつつある。


「では、夕方ソワレでいかがでしょう?」

「おお! 異国語の名か! いいな。ソワレ! お前は、ソワレだ!」


 そんなわけで、お義父さんは愛玩動物を迎えることとなった。

 ウサギはお義父さんによく懐き、仕事も一緒に出かけるという。

 なんとも平和な光景であった。

 

挿絵(By みてみん)

コミック版北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし4巻が発売となります!

内容や書き下ろしにつきましては、活動報告にて!


新連載が始まっております

『養蜂家と蜜薬師の花嫁』

https://ncode.syosetu.com/n1330fz/

北欧貴族、タイガの森の狩り暮らし、遊牧少女を花嫁に、に続く、結婚×民族ものシリーズです。

今回はスロベニアを舞台に、書いております。

どうぞよろしくおねがいいたします。

<< 前へ目次  次へ >>  更新