リツハルドと義父の、畜産改革計画?
ジークの里帰り編くらいの、ジーク父とリツのエピソードです
今日はお義父さんと、畜産農家の家を訪問する。
のどかな草原を、二人乗りの馬車で進んでいた。
目的は、家畜の見学。
来年から、畜産の規模を拡大するらしい。何を飼育するか迷っているようで、今日、知り合いの畜産農家で家畜を見せてもらうようだ。
今までメインで飼育していたのは豚。他に、牛を少々、羊や山羊は趣味程度だったらしい。
「リツハルド君のところは、トナカイを飼っていると言っていたな」
「はい。肉にクセはありますが、寒さに耐えてくれますし、性格も大人しいです」
「なるほどな~」
ここより雪深い地域では、トナカイを飼っているところもあるらしい。そこでは、荷物を引くのにトナカイを使っているようだ。
お義父さんが豚以外の家畜に力を入れようと思ったきっかけは、異国の友人の一言だったらしい。
なんでも、「この国は豚かジャガイモばかりで、飽きる!」と言われてしまったようだ。
「そんなに、豚肉料理とジャガイモだらけだろうか……?」
「まあ、食文化はいろいろですからね。自分の国に比べて、豚料理とジャガイモ料理が豊富だっただけなのでは?」
「リツハルド君は、優しいなあ」
思い返してみれば、昨日食べた料理は、もれなく豚肉とジャガイモを使っていたような。
朝食は、三種類のソーセージに、ジャガイモのポタージュ。
昼食は、
夕食は、豚肉の煮込みシチューに、ジャガイモ団子スープ。
調理法はいろいろあるし、飽きることなく食べ続けられる。
けれど、中にはそうでもない人がいるようだ。
「この問題はうちだけでなく、よその家でも聞くんだ。最近の異国人は、美食家が多いと」
豚、鶏、牛、羊、鹿、鴨など、豊富な肉を使い、さまざまな調理法で作る料理が好まれるようだ。
「肉は豚が一番おいしいと決まっているのに、世知辛い世の中だよ」
そんな話をしていたら、畜産農家の敷地内に到着した。
やってきたのは、見上げるほどに大きな背の、筋骨隆々のおじさんであった。固い握手を交わし、家畜小屋を案内してもらう。
「最近の流行は、なんといってもウサギだろう」
貴族の間で、絶大な人気を博しているらしい。
ここで飼育しているのは、毛皮用品種と肉用品種だという。
なんと、ウサギは毛皮用品としても、貴族女性から多大な人気があるようだ。
「始めは愛玩動物として人気が高かったのだが、毛並みが非常に美しく、なめらかであることから、ウサギの外套や手袋を作ってくれと、依頼が殺到したんだ」
「私は、愛犬を外套にしたいとは思わないがな」
「女の世界は、シビアなんだよ」
ぴょこん、ぴょこんと小屋で跳ねるウサギはとっても愛らしい。飼いたくなる気持ちも、纏いたくなる気持ちもわかるような。とっても暖かそうだし。口には出さないけれど。
続いて、肉用品種を見せてもらった。
「で、でか!!」
肉用のウサギさんは、とんでもなく大きかった。七キロはあるという。
先ほどの可愛らしい毛皮用品種とは異なり、佇まいもどことなく貫禄がある。
あの寸法のウサギが領地にいたら、小躍りしてしまうだろう。
「まあ、でかければいいってもんじゃないが、晩餐会ではこの品種が好まれる」
「なるほどなあ」
隣の小屋には、先ほどのウサギより小型の品種が飼育されていた。
「こっちは、小柄だが、肉質は最高だ。美食家の間で、高値で取り引きされているんだ」
「ほうほう」
七キロもあるウサギとは異なり、ほっそりしていた。可食部位は、少なそうに見える。
ただ、大きくなるまでに多大な面倒がかかるようだ。
他にも、牛や羊、合鴨にガチョウなど、さまざまな種類の家畜や家禽を見せてもらった。
大変、勉強になった。
最後に、ウサギ料理をふるまってもらった。
こんがり焼き色がついたウサギのローストである。
「わ~、おいしそう!」
ナイフを刺した瞬間、脂がジュワッと溢れる。ソースを絡め、口に運んだ。
皮はパリッパリ。肉はしっとりやわらかい。あっさりしているけれど、味わい深い。
家畜だからか、臭みはほとんど感じなかった。
パクパク夢中になって食べていたが、お義父さんは手が止まっていた。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、小屋でウサギと目が合ってしまって。ウルウルした目で、私を見つめていたんだ」
「そ、そうだったのですね」
気の毒になって、食べられないという。
せっかく用意してもらった命なので、責任を持っていただいた。
そんなわけで、畜産農家での見学会は終了となる。
帰りがけは、俺が馬車の手綱を握っていた。
お義父さんはというと……七キロもある巨大ウサギを胸に抱いている。
先ほど目が合ったという、ウサギさんだ。
買い取って、連れて帰ることになった。
もちろん、これは肉用のウサギではない。
お義父さんが、今日から飼育するようだ。
個人的には食用ウサギにしか見えないが、お義父さんには愛らしい愛玩用のウサギに見えているようだ。
「リツハルド君、このウサギの名前は、何がいいと思う?」
「そ、そうですね……」
空を見上げたら、太陽があかね色に染まりつつある。
「では、
「おお! 異国語の名か! いいな。ソワレ! お前は、ソワレだ!」
そんなわけで、お義父さんは愛玩動物を迎えることとなった。
ウサギはお義父さんによく懐き、仕事も一緒に出かけるという。
なんとも平和な光景であった。
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