エーデルガルドとアーデルトラウトの、ドキドキ森散策
・ジークの実家住まいをしていた時のエピソードです。
・エーデルガルド視点となります。
今日は、リツハルドおじさまとアーデルトラウトの三人で森の散策をする。
森の中を歩くリツハルドおじさまは、街を歩いている時よりも活き活きしていた。
「エーデルガルド、アーデルトラウト、今日は天気がいいから、気持ちがいいね」
「本当に」
リツハルドおじさまは太陽のような明るい笑顔で話しかけてくる。
「ここは、こんなに綺麗な森だったのね」
「太陽が差し込む日、限定みたいだけれど」
おじいさまの家の裏にある森は、立ち入ってはダメだと言われていた。
曇りや雨の日は、薄暗い森となってしまうのだ。
でも今日はいい天気だし、リツハルドおじさまも一緒だから特別に許可が下りた。
ここ一週間ほどは曇天が続く毎日だったけれど、今日は太陽の光が惜しみなく降り注いでいる。
余程森の散策が嬉しいのか、アーデルトラウトははしゃいでいた。
気をつけないと、アーデルトラウトは目を離した隙にいなくなる時があるのだ。
この前も、百貨店で迷子になって、みんなで探すことになった。
今日は、リツハルドおじさまがしっかり手を繋いでいるので大丈夫だろう。
「あ、おじさま見て! 綺麗な黄色い花があるわ! 蜜はどんな味がするのかしら?」
アーデルトラウトはリツハルドおじさまから手を離し、花のほうへ駆け寄ろうとした。
しかし、リツハルドおじさまはアーデルトラウトをすぐに抱きかかえ、行動を制す。
「きゃあ」
「お待ちください、お転婆なお姫様。あれは、毒草なんですよ」
「ど、毒草ですって!?」
まっすぐに伸びた枝から、可憐な黄色い花が咲いていた。太陽の光が差し込んでいて、より一層華やかに見える。
「これはね、
蜜を吸うなんてもってのほか。危険な毒草らしい。
「知らなかったわ。ごめんなさい」
「知らないことが普通だから。今度から、近づかないようにね」
「はあい」
その後も、森を散策する。リツハルドおじさまは薬草やキノコ、木の実など、さまざまな森の恵みを教えてくれた。
同時に、釘も刺される。
「二人だけで、薬草摘みに行ったらいけないよ。森は、危険だからね。摘んだ薬草やキノコは食べる前に一回おじいさんに見せて、間違って毒草を摘んでいないか確認してね」
「は~い!」
「わかりました」
教えてもらった薬草に似た毒草も見せてもらった。今の私達では、とても判別できない。
はたして、将来薬草摘みができるのか、不安になる。
「しばらくは、庭で薬草を育てるだけにしたらいいよ。じっくり育てながら、品種を覚えるんだ」
「わたしとエーデルガルドお姉さまで、薬草を育てたいわ!」
「いいね。帰ったら、お義父さんに庭の一角を借りられるか、聞いてみよう」
「やったー!」
籠を薬草とキノコをいっぱいにして、帰宅する。
井戸の冷たい水で手と顔を洗った。
とっても、気持ちが良かった。
リツハルドおじさまが、タオルで顔を拭いてくれる。
「さて、帰ってきたばかりだけど、もう一仕事だ。お姫様方、大丈夫かな?」
「もちろん!」
「私も、平気」
続けて、作業を行うらしい。
リツハルドおじさまの作る保存食やお菓子は、どれも美味しい。
それに、リツハルドおじさまが何かを作る様子は、魔法を使っているように見えるのだ。
「今日はね、薬草を使ってドリンクを作るよ」
使う薬草は、摘みたてのアップルミント。
まず、ドリンク作りに使う瓶を、鍋でぐつぐつ煮込んだ。
「瓶を煮るなんて、面白いわ」
「そうでしょう? これは、瓶の中にある雑菌を、熱で殺菌させているんだ」
雑菌が付着したままで密封させると、中の物がダメになってしまう原因になるらしい。
そのため、瓶をぐつぐつ煮込む作業は重要なことなのだ。
「瓶をぐつぐつしている間に、薬草を洗おう」
アップルミントの葉を一枚一枚丁寧に洗って、水分をふき取る。この時に使うタオルも、もちろんぐつぐつ煮込んで消毒させたものだ。
「続いて、グレープフルーツの皮を剥いて、白い部分を削ぎ落す。これは難しいから、俺がするね」
リツハルドおじさまは腰ベルトからナイフを引き抜き、するすると皮を剥いていく。
果肉の白い部分は削ぎ落して、身はぶつ切りにした。
柑橘のさっぱりした香りが、辺りに漂う。
消毒の終わった瓶は鍋から取り出して、水分を綺麗にふき取った。
「では、ここからがエーデルガルドとアーデルトラウトの仕事だ。重要なところだから、心してするように」
アーデルトラウトは手を上げ、真面目な表情で返事をしていた。
「氷砂糖、アップルミント、グレープフルーツを入れて、最後に酢を入れるんだよ」
入れる量は好きにしていいようだ。
アーデルトラウトは砂糖をたっぷり入れて、薬草は少なめ。グレープフルーツは二切れ入れていた。
私は砂糖の量は普通くらいで、薬草はたっぷり。グレープフルーツは三切れ入れてみた。
レシピはしっかりメモに取って置くように言われた。
「分量によってそれぞれ違う味わいになるから、自分の好みが分かるまで作り続けるんだ」
レシピを取っていたら、同じ味わいの物が作れる。
リツハルドおじさまはそうやって、保存食やお菓子作りをしていたようだ。
仕込みが終わった薬草ドリンクは、冷暗所で一週間保管しておく。
私とアーデルトラウトは、一日に一回、薬草ドリンクの様子を確認に行っていた。
「早く飲みたいわ」
アーデルトラウトは待ちきれないようで、先ほどから瓶をツンツンと突いていた。
「アーデルトラウト。まだ、二日しか経っていないわ」
「そうだけれど」
リツハルドおじさま曰く、お湯割り、ミルク割り、炭酸割り。さまざまな物で割って飲むと美味しいようだ。
アーデルトラウトの待ちきれない気持ちもちょっぴり分かる。
「ちょっとだけ、味見してみたいの」
「でも、今開いたら、瓶の中の魔法が解けてしまうって、リツハルドおじさまが言っていたわ」
「そ、そうなのね。だったら待つわ」
リツハルドおじさまから聞いていた、アーデルトラウトが飲みたがったら言えばいいと教えてもらった呪文が役に立った。
リツハルドおじさまは妖精なので、このように不思議な魔法が使える。
私とアーデルトラウトは、そんなリツハルドおじさまが大好きだ。
これからも、魔法を習いたい。
そして、いつか一人前になって、魔法で作った物を売るのが私の夢。
だから、今は修業をするばかりなのだ。
無料漫画サイトComicPASH!様にて、北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らしコミカライズ最新話が更新されております。本日はトナカイ狩り編です。
※一ページ目より。掲載許可はもらっております。
作画:白樺鹿夜先生