少女とダークエルフは錬金術師について知る
第二層の親玉に挑む前に、どういった戦闘スタイルなのか説明しておく。
「私は魔弓師、エルは魔石師、プロクスは火竜で、ブレスや炎魔法を使う、フランベルジュは魔法剣、だな」
「はー。珍しいご職業ばかりで」
「キャロルは、錬金術で作った爆弾を投げるの?」
「ええ。素材さえあれば、すぐに作れるのですが」
「すぐに?」
エルは小首を傾げる。
錬金術師は基本、工房で調合を行い、魔法を使いつつ薬品などを作る。完全に、室内で能力を発揮する職業なのだ。
「これは、ここだけのお話なのですが、私は手に素材を握っただけで、調合できるんです」
「え?」
「あんた、素手で薬品や爆薬を作れるのか?」
「はいー」
いったい、どうやってするのか。エルは思わず、疑いの目をむけてしまう。
エルも調合について、少々の知識がある。面倒な工程を短縮できる術も知っているが、絶対に道具は必要だ。
「あの、どうやって、道具をなしで……あ、ごめんなさい。言えるわけないよね」
「いえ、いいですよ。私の秘密を、教えます」
「え?」
キャロルは手袋を取り、手のひらを見せた。
「なっ!?」
彼女の手のひらには、魔法陣が刻まれていた。これは、文字を書いたのではなく、皮膚を焼いて刻んでいるのだ。
「何か、薬草を持っていますか?」
「第一層で摘んだ、ヒール薬草なら」
エルが差し出したヒール薬草を、キャロルは受け取ったあと、両手で包むように握った。
すると、キャロルの手の中がパッと光る。そして、手を開くと、人差し指と親指を丸めたくらいの水の球が浮かんでいた。
「はい、中位ポーションの完成です!」
「中位ポーション!? 渡したのは、低位のヒール薬草だったんだけれど」
「あ、それ、祝福の力です。私が直接製作にかかわると、薬草のランクがアップするのですよ」
作ったポーションは自在に操り、口元へ運ぶこともできるらしい。プロクスの前に飛ばしたら、嬉しそうにぱくんと食べていた。
『ぎゃーう!(元気になったよ!)』
プロクスの言葉に反応する余裕はなかった。
目の前でヘラヘラと笑う女性は、とんでもない実力者だったのだ。
「イングリット、キャロルに比べたら、うちの先生は普通の人でしょう?」
「いや、混乱した頭の中では、どっちがすごいか判断できない」
エルにはもう一点、気になることがあったので重ねて質問してみる。
「あの、ポーションを作るときは、魔力水が必要になるんだけれど、さっきは使っていないように見えたから、不思議で」
「ああ、それは、ここにあったので」
キャロルが「ここ」と指し示したのは、腹部であった。
エルの頭上に、再び疑問符が躍り出る。
「え、どういう、こと?」
「私は体内に、アイテムボックスを持っているのですよ。口から含むことによって、ほぼ無限に貯蔵できるのです」
「毒草も、平気なの?」
「はいー」
「な、なんで、そんなことができるの?」
「祝福の力ですかね。ただ問題は、体内で調合できないことです。外に素材がある状態でないと、何も作れないのですよー」
イングリットは明後日の方向を見ながら、「理解の範疇を超えた」と呟いている。
「爆弾も、材料が手元にあったら作れますよ。でも、ここら辺ではなかなか見つからないですね」
「そ、そう」
「説明はこれくらいで、大丈夫ですか?」
「あなたのことについてはよくよく理解できたけれど、わたし達に喋って大丈夫だったの?」
「ええ。だって、エルさんは妖精を連れていますし、イングリットさんも妖精族ですし、絶対に悪い人じゃないです。話をしていても、信用に足る人物であると、感じています」
妖精の中には三種類、善い妖精と悪い妖精、それから善くもあり、悪くもある妖精が存在する。
ヨヨは典型的な、善い妖精なのだとキャロルは言い切った。
『なんだか、照れますなー』
「猫くん、謙遜しなくてもいい。猫くんはとても善い妖精だ」
『まあねー。エルのことをずっと、無償で見守っていたし』
「ヨヨ、今は契約しているでしょう?」
『そうだったね』
ずれた話を元に戻す。
「えーっと、キャロルは作った爆弾を、必ず敵に飛ばすことができると?」
「そうですね。まあ、手元に一つもないのですが」
「わたしが持っているアイテムの中で、調合に使える品はあるかな」
エルは魔法鞄の中を探って、キャロルの前に並べた。
「どんぐりに、イガ栗、水吐フグ……」
「オイオイ、エルサン。なんだその、水吐フグってのは。生きているように見えるのだが?」
水吐フグというのは、球体の魚だ。生きているように、上下左右に動いている。
「これ、先生からもらった魔道具。頬を押すと、水が出るの」
エルは水吐フグを手に持ち、左右から潰すように押した。
『オエエエエエエエエエエ~~~~!!』
奇妙な鳴き声をあげながら、口から水を吐き出す。
「これ、飲料にもできるきれいな水を召喚する魔道具なんだけど、鳴き声と口から水を吐き出す様子が気持ち悪くて、ぜんぜん使っていない」
「ちょっと待ってください!」
キャロルが水吐フグに食いつく。じっと眺め、そして叫んだ。
「こ、これ、偉大なる大賢者が作った、発明品では!?」