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第4章 第5話 ネストの森◇

【アガルタ第二十七管区 第3391日目 第二区画内 第2日目】

【総居住者数 2870名(第二区画内 958名), 総信頼率 99%(第二区画内 100%)】


 前足で叢を踏み散らし、毛を逆立て威嚇してくる黄色いクマっぽいモンスターとエンカウント。

 ある日森の中クマさんに出会ったとか言ってる場合じゃない。

 蜂蜜一緒に食べようってわけにもいかないし、一刻も早くすたこらさっさっさーのさ~したいけどクマさん許してくれそうにない。クマッたクマッたとか言っても更に駄々すべり。


「絶対に視線を外してはいけません! 武器を構えて睨んで!」


 森の獣の生態を知るパウルさんが警告を発する。

 視線を外すと襲い掛かってくるんだそうな、なにそれこわい。


 怖いので親しみを持つためにプー太郎って愛称はどうだろう。

 プープー威嚇してるからプー太郎だ、別に他意はない、失業してるわけでもない。


 まあでもここは私の出番か? と、皆の一歩前に出て何となく立ち塞がる。

 プー太郎君を神様的存在感で懐柔しようとするも、なびいてくれる気配なし。

 あれ? 二十七管区の動物たちって私のこと好きなんじゃないの? 

 そういやネストではシツジに馬鹿にされてた、何でこの区画だけ……モンジャでは野生のエドすら私に甘えてきて飼い猫同然だったのに。


”勘違いするな、これらの獣は相手構築士の支配下にある。赤井君をボスと認め服従するのは、区画解放後だ”


 そうなんですか、だから神様的な魅力は通用しないってことね。

 ここはお約束的にちょっと噛まれて敵意がないことを……とか思ったけど頭からかじられそう。


「赤い神様、あれを射てよろしいですね!?」


 自作の短弓の矢を三本、番えながらラウルさんが私の許可を求める。

 ラウルさんの弓は持ち運びに便利な小型だけど、グランダの技術と融合して改造された複合弓(金属で裏打ちがしてある)、更に連射式で飛距離が長く、矢じりに鉄製の返しがついてるから抜けにくい。

 殺傷能力が高めだし、モンジャの民は私が無益な殺生を嫌うのを知っているので一応伺いをたてる。

 ロイも背に背負っていた神槍の帯紐を解いて構えながら、


「あの動物の肉は食用になるのでしょうか。食べられるのならば殺しますが」


 彼は実利主義だ。


「肉も固く不味いうえ、毒で舌が痺れますので食用には不向きです」


 しかめつらをして首を横に振るパウルさん。

 それじゃ自己防衛以外の理由がないから私は殺生できないな。

 いや、別に皆は自己防衛の為に殺してもいいんだけど、これからネストの森を皆でローラー作戦で捜索しようとしてるのにいちいち虐殺してたら森の生態系が壊滅する。


”先輩、私らって人間も動物も殺生NGなんでしたっけ”

”甲種構築士は殺生不可だよ。乙種以下はノーペナだがね”


 そうでしたよね。私たち甲種だから殺せないんですよね。

 先輩、悪役のときはバッサバッサやってましたしね、楽しそうでしたよね。


”私のパッチの効果っていつ出ると思います?”


 あれだけ伊藤さんに文句言ったくせに、結局困ったときのパッチ頼りか、と言わんばかりの先輩の視線が痛い。


”知らんがな。プロマネに直接訊けよ”

”先輩ってバイオコンストラクトを動物対象に使えないんですか? とりあえず眠らせたりしてもらえませんかね?”

”既に他の構築士によってバイオコンストラクトがかかってるから二重がけはできんよ。相手構築士の支配下にある対象はどうしようもないな”


 ですよね~。ちょっと麻酔物質でもネスト全域の獣に打ってもらおうかと思ったんですが。

 待って! 今既にバイオコンストラクトがかかってるって言った?


”ばっちり先方に三枠使われとるな。どうやらテストステロン(攻撃性物質)が過剰投与されとるよ、エグい濃度だ”

”ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体拮抗剤とかで、直接血中に打ち込んで攻撃性を緩和しましょうか。もしくはイソフルラン(C3H2CIF5O:麻酔薬)で”


「赤井様、赤井様!」


 私達の水面下での遣り取りを知らないロイが、私達が尻込みしてるように見えて痺れを切らしたのか


『あ、はい何でしょうロイさん』

「14(2)-16(N2O)の構築をお願いしてもよろしいですか!?」


 ちょ、笑気ガス使ってくれとか! 

 麻酔で気絶させて切り抜けようってあたり私と発想が同じで怖い。

 私がいつかこの子と、先で一戦交える運命なのかと思うと戦々恐々とする。

 いや、そんなことさせませんけどね。

 君が万が一暴走しそうになったら私がどんな手段を使って石にかじりついてでも止めてみせる。


”君とロイはちょいちょい小賢しいな。そんなの大気で希釈してしまうんだから構築枠の無駄だ無駄。無駄無駄無駄だ”


 エトワール先輩ってばそんなに無駄無駄いわなくても。というわけで


『よい考えですがそれはできません、あの巨体に効く濃度となると、あなた方も昏倒してしまうのですよ』

”下手な考え、休むに似たりだ。単純に気絶させてはどうだね。ほれ、こんなに集まってきたぞ?”


 いつの間にかプー太郎の群れに囲まれとる! 

 これどこから湧いたの、さっきいなかったじゃん!

 てか先輩のテンションの下がり具合がヤバい、まさか高見の見物決め込んじゃう? 

 やる気出してお願いしますから、かなりアテにしてるんですから。

 って、まさか助太刀無用とプロマネに念押しされてるとか。人がいるから物理結界も張れやしない、物理結界の内側って真空になるし皆が窒息しちゃう。


 あれこれ考えていても、先輩の言うように下手な考え休んどるがな。

 私の動揺を察したのか、均衡が破れた!


「くるぞ!」


 猛ダッシュで襲い掛かってきたプー太郎の首裏を、ロイが槍の柄で音が聞こえるほど殴打。

 効いている様子はない。

 ラウルさんが立て続けに射た矢は全て腹部に命中するも、プー太郎の分厚い皮膚に突き刺さりはしても巨体にダメージを与えない。

 でも怒らせるには十分で、鼻息荒くなってる!


『私に任せて下さい!』


 ここはひとつ穏便に電撃で……私は人差し指を向け、息を吸い、できるだけ範囲を絞り込んでプラズマを纏い電撃を準備。

 私って厨二病的能力色々持ってるけど、これまで殆ど電撃しか使ってないからね。

 だって力を加減すれば殺傷しないし安全ですから。てなわけで


『目を瞑り耳をふさいで!』


 大きな声で予告して一秒後、パシッと乾いた轟音がして、二度、三度と厳霊が閃く。

 申し訳ないぐらい強い電圧かけたつもりだけど……プー太郎軍団は倒れない!?


「赤井様の神雷が効いていない……?!」

”ふーむ、神通力による攻撃がキャンセルされたな。神頼み禁止、住民にも戦わせろってことだろう”

”は!? 電撃も火炎もその他もろもろ無効ってことですか?”

”そりゃ、区画解放は住民参加型のイベントだもの。神頼みで攻略できるなら住民ついて来なくていいだろ”


 そうでしたね、だから先輩は以前グランダ民を無差別攻撃して巻き添えにしてましたしね。


「あ、危ない!」


 ぼやぼやしてたら、脇腹に鈍い衝撃がきて真横から突き飛ばされた。

 叢に顔からつんのめりそうになったので側宙で体勢を立て直すと、誰かと思えば犯人はパウルさんだ。

 でも私が先ほどいた場所に、猛突進してゆく黄色い影を確認。

 あっぶね! パウルさんに突き飛ばされなければ、プー太郎の超重量級の頭突き喰らっていたよ。

 私の肉体強度は人ほどしかないし物理結界解除してるから、一撃喰らったら頭蓋骨骨折余裕でした。

 目標を見失ったプー太郎は前足で急ブレーキをかけ、こちらに向き直る。

 その巨躯で小枝をメキメキとなぎ倒し、一歩一歩にじり寄ってくる。

 ちょい私もプー太郎になめられてばかりで頭きた。てなわけで


『皆さん離れて!』


 私は神杖を握り単身プー太郎の群れの中に飛び込んだ。そしてすかさず展開したのは


”心理結界、径5m”


 獣だろうが人だろうが、心をへし折ってやんよ!


『あ、あれ?』


 コネ――――!!

 プー太郎たち、心が折れるどころか二足歩行体勢で立ち上がり更に怒りMAX。

 第二区画の人、テストステロン投与しすぎ! 

 プー太郎たち逆三体型のマッスルボディになってるじゃん、

 パンプアップしてんじゃん! 「キレてるキレてる!」とか 「ナイスバルク(いい筋肉)!」ってご機嫌取ってる場合じゃない。

 違うか、ボディビルじゃないのか。


 ちょっくら現実逃避してたけど心理結界無効ってことね。

 そういや先輩が神通力無効って言ったじゃん! 真面目に聞いてなかったよ。

 ネスト民、ぽかんとしてる。やっちまった、ここは勢いで誤魔化すしかない!


『うおりゃああああああ! 覚悟なさい!!』


 結局、神杖で物理的に戦うしかないのでありました。

 何だかんだいって私って肉体強度はともかく怪力ではあるから、普通に戦えばよかったんだ。

 二~三匹は軽く頭殴ったら一発で気絶してくれた。

 この調子で全部やったるぜ、と思いきや


「おおお、我らも神様に続け――!」


 パウルさんがときの声を上げると、ネスト軍団総攻撃。プー太郎さんたちをタコ殴りやら滅多刺し。

 パウルさんが先陣切って今までの恨みつらみを込め一思いにプー太郎の口に長剣を突っ込んでかき回した。ぎゃー残忍! 鬱蒼とした森の仄暗い視界の中でも迷いのない攻撃は見事だ、そしてパウルさんと兄上様が連携し、背後から脇腹を槍で突いてきっちりとどめを刺す。

 この親子、さすが武芸に秀でた王族だけあってよく鍛錬してる。

 てか、殺しちゃったねこれ完璧に?

 私の声も聞こえちゃいない。


『ちょっと……待っ……』

「いいですか! ネストの森の怪獣は、口か目を狙うんです。迷ってはいけません」


 それがネスト流の戦術らしい。

 粘膜なら柔らかいから人の力でも刃物が簡単に通る。

 口の中を剣で突くわけだから、運が悪いと一飲みにされそうだけど。


「うわあっ!」


 仲間を倒され憤慨した別のプー太郎が、パウルさんの背後から鋭い爪で右袈裟がけに襲いかかった。

 一撃浴びるかと彼が目を閉ざした時、パウルさんの背後についていたグローリア君が光る毛玉の塊の巨大風船のように爆発的にパーンと膨らんだ。


 何これパウルさんのエアバッグ!? 

 プー太郎の爪の毒がグローリア君を蝕み、グローリア君はへなへなとしおれて蛍光を失い茶色く枯れ落ちた。


「どけ赤井!」


 息つく間もなくキララが短槍を操り、面食らっていたプー太郎を喉から貫く。

 更にこれでもか、これでもかと二度、三度、深々と刃物が呑み込まれてゆく。怖!


『キララさん、それ以上はもうやめて下さい!』


 そういやこの子、こういう事する容赦ない子だった。

 そんなに念入りに止めくれなくていいから!


「今、背中の植物がパウル王を守ろうとしていたように見えたが?」


 とラウルさんが私の疑問を代弁、


「そうです。グローリアは一度だけ守ってくれるんです、まだ油断しないで!」


 パウルさんは身を挺して彼を庇ってくれたグローリアに報いるべく、盾でガードしつつプー太郎に躍り掛かり雨のように攻撃を続ける。

 ひらりひらりと縦横無尽、三十半ばとは思えない身のこなし。

 ともあれ総員入り乱れての大乱闘の末、ひいふうと数えてみれば死骸が十八体。

 足元を見ればさっき私が意識飛ばしたやつが目覚めかけたから、もう一回殴っといた。

 目を覚ましたら皆に殺されそうだし、眠っときなさい。

 グローリア君も何匹かやられて萎びた、もうだめって顔して「きゅ~」とかいってる、可哀そうに。

 暫く様子を見てると枯れたグローリアくんの中から朝顔の種によく似た種がコロリと出てきた。

 土に植えておけば蘇るのかな。


『皆さん無事ですか、怪我はありませんか』


 何人か牙や爪で負傷して毒が身体に入った人がいたけど、抗毒血清のおかげで問題ないみたい。

 にしても、よくもこれだけ殺生したもんだと血の気が引く。

 私は一体も殺してませんけど……。

 複雑な思いで俯く私をまじまじ見ていたパウルさんが、


「とどめを刺さないのですね、ご自身に殺生を禁じておられるのですか?」

『え、ええ。殺生は好みませんから』

「私達が屠殺することは禁じないのに、ですか?」


 自分の手は汚さないってことなのか、神の聖性は上辺だけのものなのか。

 パウルさんの心の中の疑問の声が聞こえてきそうだ。

 ……すみません。綺麗ごとかもしれませんが、これは規則なんです。

 私が返事に窮していると、凛々しく澄んだ女声が耳朶を打った。


「赤井は違うんだ」


 私とパウルさんの間に割って入ってきたのは、白いニットワンピな民族衣装にオーバーニーの皮ブーツ、そして銀の胸あてをした金髪碧眼の少女。

 立ち回りを終えて頬がピンク色に火照っている。

 肩まで伸びていたウェーブがかった髪をおだんごにして頭の上でまとめ、おくれ毛が何本か。

 女武将然としてるけど可憐だ……勇ましく喋らなければ。


「赤井にとって、獣の命も我々の命もさして変わりない。蔑んでいるのではなく、みな平等、みな尊い、彼は本気でそう信じているお人よしだ。だから絶対に殺生をしないし、彼は例え自身が傷ついても信念を貫く覚悟がある。結構じゃないか、我が国を支配していた天空神ギメノグレアヌスは獣も人も見境なく殺したぞ。神にも其々個性がある。ならば私は、誰も傷つけない穏やかな神がいい」


 何とキララが私を全面弁護してくれた。

 あれだけ毎日のように呪いをかけたり私を憎みまくってた子が。

 普段はツンツンしてるだけに、これは何だかクるな。

 申し訳ないやら自分が情けないやら、でもありがとうキララ。

 先輩が果てしなく体裁悪そうだけど触れないであげてください。

 私はキララの言葉に胸を打たれ、インフォメーションボードを密かに立ち上げて全110の構築枠を使いあるものを合成。……彼女の話は終わっていなかった。


「しかし、だ」


 キララは私が止めをささなかったプー太郎の喉首を一瞬にして掻き切った。

 彼女の立場、私のそれとの違いを明確に示すように。

 喉元からヒューヒューと音が鳴り、やがてこと切れる。


「しかし我らは人であるから、我らが生きるために殺さねばならんのだ」


 キララは頬に散った血飛沫を拭いながら私を振り返った。

 命なきものに対する羨望の眼差しが、痛いほどに突き刺さる。

 彼女が私の言葉を待っているようだったので


『…… 生きるために必要なだけ殺すこと、他の命を頂くことは間違いではありません。しかし獣たちはもともと毒もなく、温和な性格だったと聞きました。私達の目的は精霊を捜して元の森の姿に戻してもらうことに他ならない。森と共存できる筈、いえ、そうしなければなりません。血の気配は森を騒がせ、獣たちを呼びよせます』

「でも、殺さなければ私達が殺されますし、一日でこの森の探索を終えなければならないんですよ? 戦わず逃げても道を見失う」


 兄上様の御不満もごもっともだ。そういやそうだよ。

 精霊の封印の場所って日替わりで変わるんだっけ。

 つまり今日中に森を探索し終わらなければ、翌日一からやり直さないといけないってことなんだ。

 何その鬼畜設定。

 じゃ、逆にいえばどこか安全そうな場所を陣取って毎日重点的に捜し続ければいつか封印が見つけられるってことにも……やめやめ、ネスト民が待てないし、何日ごとにアタリが出るかも分からない。

 予定通り、一日で捜索を終わらせるのがベストなんだ。


 私はタイミングよく構築を終え私の手の裡に落ちてきた白い物体を彼らに掲げて見せた。


『では、これを使ってください。遠くから攻撃できる飛び道具の刃先、針先に満遍なく塗ってください』


 私は白い結晶を皆に配り、矢を中心とした飛び道具に結晶をたっぷり塗ってもらった。

 ケタミン、アセプロマジンほか、電子ジャーナルで調べた麻酔薬数種類を構築し練り薬にしたものだ。

 麻酔薬を塗った矢的なもので遠くから大型獣を射れば、ものの数分で数時間眠ってくれるから。

 近接戦になると身がもたないし怪我するし危ないから、エンカウントしたらそれでやり過ごしてどんどん先に進んでほしい。私達の目的は森を驚かすことではない。


「これで獣が眠るようになるのですか。これはいい、では早速、手分けして精霊の封印を捜しましょう」


 ネストの五十人ほどの探検隊は、私とエトワール先輩が割り振って五班に分かれてもらった。

 獣と互角以上に戦える主戦力のロイ、エトワール先輩、私、兄上様、パウルさんは一人ずつ分散して班わけだ。

 キララも戦闘能力的には十分だけど女の子だし、私が他の班の救援に駆けつける際、私の代わりに班長として捜索を続けてもらうため私の班に。私とエトワール先輩の班に当たったネスト民は気持ちばかり心強そう。


「これが地図です、なくさないように」


 森の地図の写本があったので、それをパウルさんが班ごとに一部ずつ配り、何かあったら呼び笛で連絡し合おうってことになった。

 この笛はネストに古来より伝わる、人間にしか聞こえない周波数の呼び笛なんだって。

 ピーッ、がSOSで、ピピーッが、精霊の封印を見つけたときの合図にしようと決めた。

 各班に危険が迫ったら、基本的には私が駆けつけて対応する。

 方位磁石がないから遭難しないよう、木に班ごとの五色のチョークでカウントアップ式に数字をつけ、影のできる方向から方位を確かめながら進むよう教えた。


「では、行きましょうか」


 ロイが早く出発したがっている。


『精霊の封印が見つからなくても、日没までには森の入口に戻ってきてください。戻ることができなかったらすぐ救出に向かいますので呼び笛を吹いてください』


 エトワール先輩が最後に、掌大の紫の水晶玉みたいなのを各班のリーダーに渡して『お守りだから、絶対になくさないように』とか言っていた。

 わかった、それ盗聴器ですよね、とカマをかけると


”盗撮用水晶だよ。半径十メートルの様子が見える、電波は君と私のインフォメーションボード上に転送されるから。1カメが赤井君、2カメが私、3カメがパウル班、4カメがパウル王の息子班、そして5カメがロイ班だ”


 インフォメーションボードのライブ画面を見れば、確かに私以外の4つのカメラからの中継が入っている。

 よっしゃこれで何が起こっても平気だ、呼び笛を吹く暇がなかったとしてもすぐ助けに行ける。

 時刻はアガルタ時間で午前8時30分、ネストの森入口から班ごとに出発。


『皆さん、決して無理をしないように』 私の心配をよそに

「ただ、皆さんに幸運を」 何か覚悟を決めたようなパウルさん、

「必ず見つかりますよ、落ち着いていきましょう」 とロイが皆を勇気づけ、

「獣は強い、たとえ眠らせることができるとしても油断は禁物です。背後を取られないよう気を付けて下さい」 と、実は慎重派の兄上様がロイを諌める。


『では、探索開始。はぐれずについてくるんだぞ』 


 エトワール先輩が引率の先生みたいだ、エトワール班は多分無事に戻ってこれるよ、間違いない。


『さあ、私達も行きましょう』


 私達、赤井班は森から海を目指す方角。南西を目指す。


 私は地図とインフォメーションボードを照らし合わせながら皆の先頭に立って、ガシガシ草を踏み分けながら進路を取る。

 カヤっぽい草がびっしり生えてるし、地面も泥濘で足がとられる。

 木々が生い茂って蔦も絡みついて見通しが悪い。

 こりゃ皆がはぐれないよう、休憩を挟んだ方がいいのかもな。なんてなことを考えながら


『何か気付いたことがあったら何でも教えて下さいね』


 と、私の班は私含めて十一人、とりあえず顔ぶれを見ておこう。

 引率責任者だしね。私は振り返って一人一人の顔を見て点呼……と思いきや。

 おかしいぞ、何回数えてもおかしい。

 段々と私の眉間に縦皺が寄ってくる。


「どうしたんだ赤井? 険しい顔をして」

『もしかして十人しかいません?』

「……む、これは確かに。十人しかいないな」 


 班別行動始まって十分以内、一人消えた!! 

 さっきいたよね?! 私を含めて十一人いたでしょ、私数えたしキララも数えてくれてたよね!? 誰だか知らないけど、はぐれるの早え!! むしろ私が引率者失格なのか。


 神隠しなってるじゃん! 

 神以外が神隠しやっちゃだめでしょ! 

 他の班はどうなってるの、全員ついてきてる? 

 私はかなりテンパりながらもインフォメーションボードをチェック。

 今すぐ迷子センターに問い合わせたい!


 もしかしてはぐれた人、他の班について行っちゃった? 

 よその班と合流して無事ならいいんだけどさ……。


【ネストの森探索隊 総員51名】

 1班  赤井班  10名(11名班 うち 行方不明者 1名)

 2班  エトワール班  15名(13名班 うち 過剰者 2名)

 3班  パウル班  9名(9名班)

 4班  パウルの息子班  9名(9名班)

 5班  ロイ班  11名(10名班 うち 過剰者 1名)


 何これ明らかにおかしいでしょ、人数増えたり減ったりしてる! 

 何で全体で2人も増えとるし! 

 第二区画の人、対処できそうな班にだけ人数増減させてる。


 どっちかってと不明より過剰の方が怖いよ、エトワール先輩はともかく、それ絶対人間じゃないからロイたち全力で逃げて!


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