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第3章 第2話 赤井さんと、始祖たちの謎◆

 エトワールは実に普通にモンジャ集落に受け入れられていた。

 モンジャ民曰く、あかいかみさまの天使さまなら大歓迎です、ということらしい。モンジャ民はあいも変わらず友好的だ。


 エトワールは物珍しさもあり、男女問わず子供にも大人気である。

 悪役と違い素民と友好的に接することができて嬉しそうなエトワールを赤井は"美形な先輩の方が人気出たらどうすればいいんだ、傷心のあまり放浪に出ちゃおうかな"と体育座りで遠巻きに座って見ている。

 エトワールは『面倒くさい神様だなあ赤井君は』とつぶやき赤井にインフォメーションボードを改造した鏡を差し出す。


 赤井がアガルタに入って九年目。

 初めて自身の顔を見たのだが、想像を絶する超絶美形で驚く。

 さすが主神のアバター、瑕疵ひとつないほどに完璧で、エトワールに負けていないどころかそれ、好みの問題もあるがそれ以上だった。

 やはり瞳は赤い、ルビー色。

 直視できないほど神がかった美形グラフィックが鏡の中にいるのに驚き、赤井は思わず全身エビ反りで鏡からのけぞってしまった。


『これが、私? 先輩、この鏡私に下さい、毎日見ます!』


 もはや何かに目覚めてしまいそうである。

 現実世界に残してきたフツメンな肉体に戻りたくない、危うくそう思ってしまうところだった。


『気持ち悪いぞ赤井君。主神の顔がいいのは当然じゃないか。管区人気にもかかわる。それより毎朝寝癖を直したまえよ』


 鏡を見て密かに気をよくした赤井はともかく。

 エトワールは子供にも懐かれまくった結果、翼を引っ張られて白い羽根も抜けていた。

 いつか全部抜かれて翼が手羽先状態にならないかと赤井は心配だ。


『ところで赤井君、私と君のアトモスフィアの配分はどうする?』

『アトモスフィア?』

『ふむ、そこからか』


 エトワールのいうアトモスフィアの問題とは。

 グランダの区画解放前、ブリリアント(=エトワール)が悪役構築士としてその区画と民を預かって執政する間、彼は大気を介してグランダの民の恐怖心や信仰の力を集め、そのエネルギーを元手に構築を行っていた。

 一方、ハイロードの力の源は厳密で、信頼の力以外にはエネルギー源にできないようだ。

 ハイロードと他の構築士たちの格差づけ、神としての聖性、公正さ、慈愛の心を維持させるための縛りなのだろうとエトワールは言う。

 神通力の源、信頼の力や信仰によって生じる生体エネルギーの正体は、アガルタ内ではアトモスフィア(Atmosphere)というらしい。

 要するに素民の思いの籠ったエネルギーを構築士はプラズマ圏のように自身の周囲にまとい、そこから小出しに力を引き出して奇蹟を起こし構築を進める。神様役のアトモスフィアだけは特別に神通力と呼ぶ。

 だからエトワールも赤井のサポートの仕事をする為に、方法はどうであれアトモスフィアを回収しなければならない。

 赤井が民から一括で信頼の力をベースとした純度の高いアトモスフィアを回収しエトワールに分け与えるか、エトワール自身が直接民たちを抱擁することによって赤井の代理者としてアトモスフィアを民から回収するかの二択がある。


 赤井の神体を介してエトワールへの間接供給だとロスが多そうなのと、人数が増えたので、エトワールが直接祝福して民からアトモスフィアを回収する方法に決まった。


”なんか扶養家族ができたみたいだ、責任を感じるよ”


 気持ちもあらたまる赤井であった。

 話し合いの末、赤井が千人、エトワールが八百人の祝福を担当、という比率に。

 それでも四百人だった頃と比べると祝福だけでも断然忙しくなる。

 そこで赤井は大気を介しての大規模な祝福方法もエトワールに尋ねたが、エトワールはまだ赤井君には無理だよ、と鼻で笑ってとりあわなかった。


”結局私もまだまだひよっこ神様。しかも同期と比べても落ちこぼれ、ってことか”


 わずか八年で原始時代から弥生時代後期ぐらいまで文明レベルが進んだと喜んでいた赤井だが、井の中の蛙だったようだ。

 他の構築士のペースが異常に速かった。

 エトワールがお情けでもついてくれなかったら、まだ一人で他エリアとの格差を広げるところだった。と思うと、ベテラン構築士エトワールの存在が有難くて仕方がない。


『先輩……私ふつつか者ですがよろしくお願いしますね』

『どうしたんだ急に改まって』


 二人は洞窟に結界を張って引きこもり談笑しつつ、今後のスケジュールを立てる。

 まずグランダに行って民からカドミウムを解毒してもらわなければならない。

 エトワール自身も、鉱毒汚染をしたからには責任を持って癒したいという。


『その生体構築ってやつ、私いつ頃できるようになります?』


 何かと便利そうだし、早く使えるようになりたい赤井である。

 万能薬代りに丁度いい。

 しかしエトワールはあぐらをかきながら腕組みだ。


『今のままの赤井君なら永遠にできないよ。仮想空間とはいえ生体構築は人体の組成をいじる先進医療行為だ、一般神がほいほいやっていいもんじゃない。医師免許か薬剤師免許がなければ生体構築はできないんだ』

『じゃあ私、ずっとできないんですか』


 当然ながら赤井は医師免許も薬剤師免許も持っていない。

 せいぜい危険物取扱者の資格ぐらいだ。


『まあ、持っておいて損はないと思うし医師免許も薬剤師免許も両方とってみたらどう? 仮想空間で執務する囚神や構築士への福利厚生というか優遇政策で、アガルタ内からありとあらゆる国家資格試験を受けられるからね。独学で勉強して仮想実習をやれば医師免許ぐらい取れる筈さ』

『ぐらい? ぐらいて! そんなあ……私、先輩みたいに頭よくないし取れるわけないですよ』

『いくら君がアホでも、十年も勉強すれば何とかなるだろ? 十浪でも二十浪でもすればいつかは取れるさ。私なんかはフリーランスだし契約が切れたときや突然の解雇なんかに備えて、構築中に日本での弁護士や公認会計士資格も取得しておいたよ。医師国家試験を受験するつもりがあるなら、試験に出そうなヤマぐらいは教えてあげるよ』


 エトワールは頭を掻きながら大あくびだ。

 寝不足の原因は昨日徹夜で妻と自宅で4Dシューティングゲームをやったので、とのこと。

 何だか生活感があって羨ましい、と赤井は思う。

 赤井は布団ひとつない洞窟生活に逆戻りだというのに。


 ともあれ、そんな赤井にも時間なら腐るほどあるのだ。

 なにせログアウトまで千年ある。

 確かに、それだけ時間かけて勉強すれば……と思わないでもない。


『やる気次第さ、海外ではハイロードは生体構築を使うからだいたい医者だ。まあ、仮想空間内では暇だから医者になる』

『みなさんハイスペすぎませんか』


 ついでに、エトワールの資格取得状況は凄まじかった。

 エトワールに刺激され、赤井も勉強してみようかなあ、という気にもなる。

 素民の医療に携われないとなると、これでいいわけはないと思う。

 第一区画解放が終わり、インフォメーションボード上で電子図書を限定的に参照できるようにもなった。

 医学書も充実していたので、手があいたときに少しずつ勉強はできそうだ。

 勉強もしなければいけないが、それよりも心配なのは。


『第二区画ってどこにあって、いつ解放になるんです?』

『いや、どこにあるかは知らんよ。時期はまだまだ先だろう』

『先輩、現実世界で他区画の構築士と雑談とかしないんですか?』


 守秘義務があるから、同僚といえどどんな区画なのか明かせないのだろうか。


『職場で区画の構築内容を他区画の構築士に話すことはないな、上の目も厳しいし。ただ……第二区画の構築士にこないだ小田急線で会ったとき、赤井君の希望だと聞いてMofu-Mofuなものを作っておいたと言っていたな。君を励ましたいからって。ところでMofu-Mofuってなんだ?』

『え!? 何それ嬉しい! モフモフ作ってくれたんですか!』


 一体どんな状況でモフモフを造ることがあるというのか理解に苦しむが。

 励ます為にわざわざ作ってくれただなんて、何ていい職場環境だ……と赤井は感激する。

 それをいえばエトワールだって金属精錬や高度な建築技術をグランダに根付かせてくれてたということで、赤井はやはり感謝したい。


『モフモフって、羊とか猫とか犬とかそんな感じの毛のある動物ですよね!』


 メグの飼っていたアイというメスのエドに、メグの同意を得て毛生え薬をエサに盛ったほど、赤井はモフモフ好きなのだ。

 秋深まって寒そうにしていたので喜んでくれるはずだ、と彼に悪気はない。

 アイが気に入らなければ剃ってあげるつもりだった。


 エトワールは合点がいったかのようにぽんと手を大きく打ち合わせた。

 リアクションが派手だ。それが親しみやすさに繋がっていた。


『なるほど。羊やリャマ、アルパカみたいに毛の取れる動物だと嬉しいね』

『先輩、分かってらっしゃる! 私たちもついに羊毛もどきのセーターが着られるわけですね!』

『私たちはこのコスチュームだろ。着たってすぐ朽ちるぞ』


 エトワールは煌びやかな衣装を着ているが、赤井のコスチュームは九年も着たきりなのだ。

 簡素なデザインの白ワンピもいい加減飽きがくる。

 その前に下着をはかせろという話もある。


『私もたまには、カラフルでスタイリッシュなの着て気分転換とかしたいんです』

『主神なんだから純白以外許されないって』

『せめてデザイン違いのやつとか』

『そのうち支給されるだろ、この世界の文明レベルに応じたものがね』


 文明レベルが低いので、古代人風の衣装なのだとエトワールは言う。


 そんなこんなで赤井たちはまったりと日常を過ごしつつ。

 グランダへ出発する前日の夕方、ロイが民と戯れる赤井とエトワールの前にやってきた。

 かと思えばいきなり土下座を決める。


「赤井様、明日のことですが」

『どうしましたロイさん、準備はできましたか?』

「直前まで考えたんですが、やはり俺、集落に残りたいんです」


 ばつが悪そうにドタキャンだ。

 本人が乗り気でないなら無理にということもないので残ってもいい、と赤井は思う。

 ロイもやっと肩の荷がおり普通の人間に戻ったことだ、のんびりとモンジャで過ごすのもいい。

 というわけで


『それは構いません。あなたの意思に任せます』

「一時のこととはいえ俺に赤井様、そして天使のエトワール様が揃って集落を去るとなると、集落の安全が心配だったんです」


 第二区画の解放はまだと分かっているので赤井は油断をしていたが、ロイは向こう暫く安全だとは知らないのだ。

 集落に万一のことがあったら、と懸念するロイは国防の意識が高いと赤井は感心する。


「俺もグランダの復興は手伝いたいのです。でも、ふるさとのことが気になります。赤井様。あなたがいない間、再び神通力を預かってもよろしいですか」


 平和な時に力を授けるのは赤井も気乗りしない。

 何より、力を授けるときには痛みを伴うのだ。

 それはロイも知っている筈だ。いたずらに苦しめたくはない。


『神通力の授与は苦痛を伴います。私はあなたに苦痛を与えたくありません。何か困ったことがあれば、モンジャの地から狼煙をあげてください、対岸から見てすぐに駆けつけますよ』

「ほんの少しでいいんです。雷を一度だけ呼べる程度の神通力で」


 食い下がるロイを、エトワールは興味深そうに見下ろしている。


『ロイさん、私は確かに頼りない守り神です。黙って集落を去り、長い間あなたに全てを託して戻らなかった……。でも少しは信用してください。狼煙が上がれば、今度こそ必ず戻ります』

”私がいるのに信用ならないとか、ちょっと情けないよ。もっと頼りにしてよ、自立してくれるのは嬉しい、嬉しいんだけどさ”


 しかしこうやって少しずつ人間が賢くなり、自然の脅威に対する力をつけて、なすすべなく祈るばかりの神話の時代を脱出してゆくのかもしれない、と赤井は漠然とそう思う。

 過去、人々の歴史がそうだったように。


”ロイは私が教えた智を以て民を導いてゆくんだろう”


 神である赤井は、この世界で誰からも必要とされなくなるかもしれない。

 そして真に人間の時代がやってくる。

 そうなったときに構築士は、誰にも見送られずひっそりとログアウトするのだろう。


 構築士の構築してゆく世界が完成し、その手を離れる。

 それは人が神を忘れるときでもある。

 彼らの進歩を嬉しく思う反面、未来のことに思いを馳せると赤井は寂しくなった。

 どうしようか、また痛い思いをさせたくないし……と悩んで俯いていると。


「赤井様が御心をいためる必要はありません。雷を一度呼べるだけの神通力があれば、俺は自らに雷を落として力を増幅させることができる。何事もなければ神通力は使いませんし、有事に備えて少しでいいんです」

”ロイ、恐ろしい子! 自分自身に雷を落として充電って無限蓄電法じゃねそれ? 何度も落雷を自分に落とせばエネルギー供給∞だよ”


 今度アトモスフィア不足でピンチになったらやってみよう、密かにそう思う赤井である。


『わかりました。あなたはますます賢き青年となりましたね。私も誇らしいです』


 赤井はロイを軽く抱擁し、きっちり1.5GJほどの神通力を与える。

 彼は痛いとも言わなかった、この一年で根性がすわったようだ。

 ロイは懇ろに礼を述べ、肩をぐるぐる回し首を鳴らしながら家に戻っていった。

 後ろ姿がワイルドすぎだった。


『さすがというべきか。恐るべし、というべきか』


 エトワールは、ロイの背を見送りながら驚く。


『そうでしょう、うちの秘蔵っ子で集落のリーダーですから。あの子の成長ぶりには時々ぞっとすることがありますよ』


 エトワールは腕組みをしながら一人で頷いて感心してる。

 しかし、次の一言を赤井は聞き逃さなかった。


『彼はずば抜けているね。さすがは、フォレスター教授の御子息だ』

『え? フォレスター教授……って?』

『え?』


 エトワールは驚きとともに気まずい表情になった。

 口を滑らせたという顔だ。

 何か守秘義務のある重大極秘情報を漏えいした、といわんばかりの。


『赤井君、君は担当官から本当に何も聞かされていないのか?』

『聞かされてないからこういうリアクションなんです私。何か知ってるなら教えてください』


 できるだけ早めにお願いしたかった。

 情報は小出しにしないで下さいよ共有しましょう、と付きまとって尋ねる。


”ロイ、確か身よりがなかった筈じゃ……別エリアにフォレスター教授っていう素民のお父さんいるとか? で、ロイだけこのエリアに出されたとか? その情報ロイすげー喜ぶじゃん、天涯孤独じゃなくなるよ!”


 などと、赤井は一人でテンションが上がっていたのだが。


『しかし担当官が言わないのなら……』


 みるからにお茶を濁そうとしていた。

 そんなあ……と、せがんでみてもエトワールは口を割らない。


『彼ら始祖はただのA.I.ではない、とだけ言っておく』


 やっと聞き出した情報はそれだけだ。

 確かにメグやロイの能力の高さや赤井に対する信頼の力の割増具合は、他の素民たちとは一線を画していた。

 どう特別なのかエトワールは口を閉ざしているが……文脈から考えると。


『ロイってまさか、A.I.じゃなく人間だったり……とか? なーんてこと、あるわけないか!』

『お! 五時だ赤井君。さーて退勤の時間だ、今日の晩飯は何かなっと。じゃ、お疲れ様。また明日』


 エトワールはあっと言う間に空に舞い、現実世界に帰って行った。

 退勤っていってもさっきログインしたばっかじゃん、と赤井が拗ねる。

 どうやらエトワールは隠し事が下手だ。 

 本当にロイとメグが人間だとしたら。


”知らなかったよ、まずいでしょそういうこと予め教えてくれてないと。そもそも素民はA.I.だってパンフに書いてあったじゃん”


 A.I.だと思って接するのと生身の人間だと思って接するのでは全然違う。

 アガルタ利用者(死者)だったらこんな原始時代に放置せずサービス拡充させないと厚労省にクレーム入るでしょうに、と赤井は青ざめる。


 ……ゴクリ。と唾をのんだ。


”ま、まさか素民全員厚労省の職員ですってオチはないよね? 生身の人間が幼少時代から九年間も原始人の演技してました、とかないよね―――!?”


 メグも実はベテラン構築士で、現実世界では子持ち主婦だった、などということがあったり……。


 エトワールの次の出勤時間はいつだ。

 一ヶ月先だったりすると困る。

 真昼間にも関わらず洞窟に駆け戻って西園を呼び出そうとするも、西園は不在ときた。


『西園さん……あなた訊かれたくなくて通信切りましたね?』


 生殺しにされた気分の赤井がゴロンゴロンと転げまわって悶絶していると。


「かみさま、かみさま! 大丈夫ですか!」


 肩を思い切りゆっさゆっさと揺さぶられた。

 メグが洞窟の中にやってきて、心配そうに赤井を揺さぶるのだ。

 彼が猛ダッシュで洞窟に戻ったので、どうしたのかと後をつけてきたようだ。

 赤井が昼間っぱらから洞窟に引きこもるのは珍しいが、それは単に人目を避け西園と通信をしようとしていただけだった。


「あかいかみさま、大丈夫ですか? どこか痛いんですか?」

『め、メグさん』


 どこも痛くないが、恥ずかしいという意味では痛かった。

 ……ふと、赤井は真剣な顔でじっとメグを見る。

 そういえば彼女の心を読めるのだ。

 でもメグはメグだ。演技で心の中までは隠せない。

 ずっとメグのままだ。

 ロイもそうだ、彼の中身を少年の頃から知っている。

 彼らは仮想世界アガルタの生命体であり、現実世界のそれではない。赤井はそう思う。


 メグは赤井の両手を取ってじっと見ている。

 赤井がどうしたのかと思っていると


「まだ傷跡があります。手と脚とおなか、やっぱり痛いんですね?」


 キララに穿たれた手首の呪いの杭の痕だった。

 傷は癒えたものの、痕は残ったのだ。

 それより何より、手首の痕とは何も関係がない。

 悶絶していたのはエトワールの謎の言葉が気になって悶絶していただけだ。

 しかしメグは、仰向けになった赤井の腹に手をあて、何とも愛おしそうに優しくさすっている。


”いや、だからお腹痛くないんだけど……”


「かみさま、私たちを守るために長い間外の壁にほったらかされて、はりつけになってたってグランダの人から聞きました。たくさん血を流して傷つけられて、弱ってしまったって。そのときの傷がまだ、治っていなくて痛むんですね。こうして時々痛むんですね」

『メグさん、これは違うんですよ』


 全くもって勘違いなんです、と微笑むもメグは信じない。

 するとメグは手製の黄色の温かそうな布を赤井の腹にふわりとかけた。

 布団のつもりなのだろう。


「私、かみさまがいつかお空に帰るまで、これからはずっとかみさまの傍にいていいですか? かみさまのことが心配です。かみさまは優しいから、皆の為に黙ってたくさん傷ついて……本当は辛いのに隠そうとして。その苦しみを、私が少しでも近くで癒してあげられたらって。皆よりかみさまに力をあげられる、だから私、一緒にいてもいいですか?」


 赤井は仰向けになって寝かしつけられたまま、赤い瞳をぱちくりとする。

 一方のメグはじんわりと目に涙を溜め……溢れだしそうな感情は、赤井に対する愛情だった。

 メグの顔があっけにとられた赤井の上に来る。

 はらりと彼女の髪の毛が頬にかかり……赤井が気が付くと、唇に軽くキスを落とされていた。

 メグが赤井にキスをしてきたのは初めてだった。


 メグも照れ、赤井も照れで目のやり場がない。

 じっと見つめられてますます目が泳ぐ。


”これ、どゆこと!?”


 ひょんなことから、むしろ勘違いでメグからの告白。

 メグは素民、A.I.だ。

 二次元の住民であり赤井は男性でもないので恋愛などもってのほか。

 しかしもし万一、メグの中の人が構築士だとすると……。


「大好きです、あかいかみさま。傍にいさせてください」


 切なげな声で、涙で潤んだ黒目を伏せがちに赤井にそう打ち明けるメグ。

 そのメグに対し、赤井が懐いた目下最大の疑問は


”メグ、一体君は人間なのA.I.なの? どっち?”


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