リツハルドとジークリンデの冬支度
本格的な冬が始まる前に、やらなければいけないことがある。
それは、“羽毛布団作り”。
狩猟で得た水鳥の羽毛を選別し、水で洗い、乾かしたあと、袋状に縫った布の中に入れるのだ。
「というわけで、羽毛布団を作ります!」
ジークは不思議そうな表情で、羽毛が入った袋を眺めていた。
「どうかしたの?」
「いや、ここの村では、布団まで手作りしているのだなと思って」
「寒いからね。冷たい湖に降りたっても平気な水鳥の羽毛は、とっても温かいんだよ」
まずは無造作に詰めていた羽毛の袋を開く。これから、選別をしなければならない。
「羽毛布団に使うのは、小指くらいの小さな羽根なんだ。大きなものは布に刺さって出てきてしまうから、ランゴ家にあげたり、釣りの道具を作ったりしているんだよ」
「了解」
一回のシーズンで、一人分作れるか、作れないかくらいの量が取れる。足りない場合は、土産屋に行ったら、買えるのだ。
「羽毛まで、土産屋で買えるんだな」
「うん。でも、たくさん買えるのは、今の時季だけなんだ」
ちょっと足りないかなと思って、買い足しておいた。
「俺も毎年、羽毛は土産屋に売っていたんだ」
「なるほどな」
ジークと共に、羽毛を選別する。集中して行ったら、二時間くらいで完了となった。
続けて、羽毛を細かい網状の袋に入れて、丁寧に洗浄する。洗った羽毛は網に入った状態で水を切り、日陰で乾かすのだ。この作業を、繰り返す。
ジークは乾燥させている羽毛を見て、眉間に皺を寄せていた。
「ジーク、どうしたの?」
「いや、普段、実家で使っていた羽毛布団も、このように作られていたのだと思って」
「そうだね」
「水鳥の羽毛の布団だと頭で理解していたものの、どういう工程を経て完成したものとは、考えもしていなかった」
たくさんの命のおかげで、俺たちは生きている。日々、感謝の気持ちを忘れてはいけないだろう。
「狩った獲物は、なるべく捨てないように、努めているんだ。羽根の一枚でも、無駄にはできない」
「ああ」
辺境の暮らしを聞いて、残酷だと言う人もいる。けれど、生きている以上、犠牲を出さずに暮らしていくというのは難しい。
「すまない。なんだか、しんみりしてしまって」
「そういう日もあるよ」
そんな話をしていると、ルルポロンが窓からひょっこり顔を覗かせる。
昼食の準備ができたと、身振り手振りで説明してくれた。
「お腹空いたね」
「そうだな」
お昼の料理は何が出てくるのか。先ほどから、いい匂いが漂っていたのだ。足早に、家に戻った。
ルルポロンは、ぐつぐつと煮えたぎっている鍋をテーブルに置く。蓋を開くと、できたてのスープが見えた。
「わっ、“シスコンマッカラケイト”だ!」
これは生ソーセージを皮から絞って、肉団子のようにしたスープだ。素朴な家庭料理である。
他に、焼きたてのパンと、香辛料を振って炙った鹿のあばら焼きがあった。お昼からごちそうだ。
ジークはシスコンマッカラケイトは初めてである。
「ジーク、どう?」
「おいしい。団子状のソーセージはプリプリと食感がよく、食べ応えがある」
「でしょう?」
食べているうちに、体がポカポカと温まった。
◇◇◇
一週間後――羽毛布団作りは最終段階になる。
「では、乾いた羽毛を、このクッションサイズの布に詰めていきます」
「これを縫い合わせて、一つの羽毛布団にするのか?」
「正解!」
一枚の布だと、羽毛が偏ってしまう。そのため、四角く縫ったクッションサイズの布に詰め込んだものを、つなぎ合わせて一枚の羽毛布団に仕上げるのだ。
「一枚の袋の中に入れるのは、これくらいかな」
「了解した」
せっせと、羽毛を詰め込んで口を縫うという作業を繰り返す。たまに、鼻がムズムスしてくしゃみをしてしまい、部屋に羽毛を舞い上がらせてしまう。
そのたびに、ジークに笑われてしまった。
詰め終わったら、羽毛を入れた袋同士を縫い合わせる。
「家族でこうして羽毛布団を作っていた頃を、思い出すよ」
「ということは、羽毛布団作りは久しぶりだったのか?」
「そうだね」
今まで、家族と作った羽毛布団を使っていたのだ。そろそろ古くなったので、新しくしたい。
「新しくしたいって、これはリツのではないのか?」
「ううん、ジークのだよ」
ジークは嬉しかったのか、口元を緩ませる。そんな彼女をいつまで経っても見つめていたかったが、手元が止まっていると注意されてしまった。
さすが、ジークリンデである。
やっとのことで、羽毛布団が完成となった。
「ねね、ジーク、一緒に被ってみよう!」
そう言って、ジークの隣に座り、羽毛布団を二人で被った。
できたての羽毛布団はフワフワで、石鹸のいい香りがして、それから温かかった。
「ジーク、どう?」
「いいな。温かい」
「でしょう?」
ジークは微笑みかけ、お礼を言ってくれる。
「リツ、ありがとう」
「いえいえ」
「来年は、リツの分を作れたら、いいな」
「うん」
彼女と過ごす今年の冬は、きっと暖かいだろう。
どうしてか、そんなふうに思ってしまった。
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