<< 前へ次へ >>  更新
149/152

二人きり

時系列はアルノーが生まれたあとの冬のお話です。

 極夜を迎える我が家に、ジークの実家からどっさり荷物が届いた。


「わあ、すごい! ジャガイモに瓶詰のザワークラウト、ダークチェリーのコンポートに、チーズ。それからこれは、生ハムだ!」


 なんと、お義父さんは太っ腹で、生ハムの原木を送ってくれた。

 贅沢な贈り物だ。


 他にも、大量の毛糸や布、毛布などが入っていた。


「地味に助かるな」

「いやいや、地味どころじゃないよ! とっても助かる!」


 今年から家族──両親やアルノーが増えたので、食料確保が倍以上となる。

 そのため、みんなで協力してせっせと保存食作りをしていたのだ。

 毛糸や毛布だって、あるに越したことはない。


「お義父さんに感謝のお手紙書こう」


 ジークは編み物を始めるようだ。


「へえ、ジーク、編みものできるんだ」

「花嫁修業と称して、教えこまれたんだ。寒いところだから、こういう技術も必要だろうと。編み物どころじゃなかったな」

「外を歩くには、毛皮がないとね」

「まあ、家の中だったら、毛糸製品も役に立つだろう」


 そう言って、ジークは俺に落ち着いた紫色の毛糸を当てる。


「ジーク。もしかして、俺に?」

「あまりうまくはないから、期待はするな」

「でも、嬉しい!」


 まさか、ジークから手作りの品物が貰えるなんて!

 顔がにやけてしまう。

 と、にやにやしている場合ではなかった。お義父さんにお手紙を書かねば。

 ジークやアルノーの近況、村の状況に、これからのことなど、いろいろ書いていたら便箋十枚くらいになった。


「まるで、上官への報告書だな」

「あはは。確かに、ジークのお父さん、上司感があるかも」

「かつては、部下が大勢いた軍人だからな」

「そうだったね」


 ジークが腰かける、陽が差し込む窓辺の長椅子に座った。

 明るいところで、手紙の誤字脱字の確認をしなければ。

 しばし、静かな時が流れる。

 編み物に集中するジークの横顔は美しい。惚れ惚れしてしまう。

 なんか、こうやって二人きりなの、久々なような気がする。

 アルノーは母上が散歩に連れて行っていた。父は遠く離れたお祖父さんのところだ。

 今、チャンスなのでは?


 ジークの肩を抱くと、きょとんとした顔で見られた。


「リツ、どうかしたのか?」

「いや、ジークが綺麗だったから、つい」

「いきなり、何を言っているのだ?」


 ジークは軽く言い返しているようだったが、頬が赤くなっている。

 こういうところが、すっごく可愛いんだよね~~。

 はあ、奥さんが素敵すぎて幸せだ。


「ねえ、ジーク、キスしてもいい?」

「まだ、昼間だろう」

「一瞬だけ! 秒で終えるから!」

「しかし、今日はランゴ家が家に──」


 ジークがこちらを向いた隙に、軽く触れるだけのキスをした。


「なっ……!?」

「ごめん。我慢できなかった。ありがとうね」



「イヤだった?」

「イヤでは……ない」

「そっか。よかった」


 そんな会話をしていたら、アルノーを抱いた母が帰って来る。

 座ったまま跳び上がるほど驚いてしまった。


「わっ!!」

「だから、言っただろう。こうなると」

「うん、そうだね」


 ジークはそう言って立ち上がると、俺の頬にキスをした。

 それと同時に、母が居間の扉を開く。


「ただいま! あら、リッちゃん、顔が真っ赤。どうしたの?」

「あ、や……こ、これは……!」


 ジークのふいうちのキスに、あたふたしているなんて母には言えない。


「わかった。お庭で仕事をしていたんでしょう? 寒かったもんねえ」


 たしかに、母もアルノーも頬が真っ赤だ。


「一緒に暖炉に当たろう」

「そ、そうですね」


 母の勘違いのおかげで、なんとか事なきを得る。


 あとでジークに聞いたのだけれど、帰宅した母の歩く歩数を数え、いつ居間に入ってくるかわかった上でキスをしたらしい。

 これは、軍人時代の癖なのだとか。


 二重の意味で、ドキドキさせられた。

 はじめての、ジークのいたずらである。


 ジークリンデさんったら、おちゃめなんだから。


コミックPASH!様にて、最新話が公開されております。

ドジっこ軍人エメリヒ登場編です。

http://comicpash.jp/hokuokizoku/

挿絵(By みてみん)

そして本日、白樺鹿夜先生作画のコミック版『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』一巻がPASH!ブックス様より発売となります。

白樺先生の描きおろし設定資料に、あかねこ先生の応援イラスト、原作者である私のショートストーリーなど、書下ろしも盛りだくさんでお届けします。

どうか、作品が長く続くために、お手に取っていただけたら嬉しく思います。

特典などは、活動報告にて!


そして、こちらの更新も今回で一区切りにしようかなと考えております。

また、何か思いつきましたら活動報告でお知らせしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

これまで、ありがとうございました。

<< 前へ次へ >>目次  更新