二人きり
時系列はアルノーが生まれたあとの冬のお話です。
極夜を迎える我が家に、ジークの実家からどっさり荷物が届いた。
「わあ、すごい! ジャガイモに瓶詰のザワークラウト、ダークチェリーのコンポートに、チーズ。それからこれは、生ハムだ!」
なんと、お義父さんは太っ腹で、生ハムの原木を送ってくれた。
贅沢な贈り物だ。
他にも、大量の毛糸や布、毛布などが入っていた。
「地味に助かるな」
「いやいや、地味どころじゃないよ! とっても助かる!」
今年から家族──両親やアルノーが増えたので、食料確保が倍以上となる。
そのため、みんなで協力してせっせと保存食作りをしていたのだ。
毛糸や毛布だって、あるに越したことはない。
「お義父さんに感謝のお手紙書こう」
ジークは編み物を始めるようだ。
「へえ、ジーク、編みものできるんだ」
「花嫁修業と称して、教えこまれたんだ。寒いところだから、こういう技術も必要だろうと。編み物どころじゃなかったな」
「外を歩くには、毛皮がないとね」
「まあ、家の中だったら、毛糸製品も役に立つだろう」
そう言って、ジークは俺に落ち着いた紫色の毛糸を当てる。
「ジーク。もしかして、俺に?」
「あまりうまくはないから、期待はするな」
「でも、嬉しい!」
まさか、ジークから手作りの品物が貰えるなんて!
顔がにやけてしまう。
と、にやにやしている場合ではなかった。お義父さんにお手紙を書かねば。
ジークやアルノーの近況、村の状況に、これからのことなど、いろいろ書いていたら便箋十枚くらいになった。
「まるで、上官への報告書だな」
「あはは。確かに、ジークのお父さん、上司感があるかも」
「かつては、部下が大勢いた軍人だからな」
「そうだったね」
ジークが腰かける、陽が差し込む窓辺の長椅子に座った。
明るいところで、手紙の誤字脱字の確認をしなければ。
しばし、静かな時が流れる。
編み物に集中するジークの横顔は美しい。惚れ惚れしてしまう。
なんか、こうやって二人きりなの、久々なような気がする。
アルノーは母上が散歩に連れて行っていた。父は遠く離れたお祖父さんのところだ。
今、チャンスなのでは?
ジークの肩を抱くと、きょとんとした顔で見られた。
「リツ、どうかしたのか?」
「いや、ジークが綺麗だったから、つい」
「いきなり、何を言っているのだ?」
ジークは軽く言い返しているようだったが、頬が赤くなっている。
こういうところが、すっごく可愛いんだよね~~。
はあ、奥さんが素敵すぎて幸せだ。
「ねえ、ジーク、キスしてもいい?」
「まだ、昼間だろう」
「一瞬だけ! 秒で終えるから!」
「しかし、今日はランゴ家が家に──」
ジークがこちらを向いた隙に、軽く触れるだけのキスをした。
「なっ……!?」
「ごめん。我慢できなかった。ありがとうね」
「イヤだった?」
「イヤでは……ない」
「そっか。よかった」
そんな会話をしていたら、アルノーを抱いた母が帰って来る。
座ったまま跳び上がるほど驚いてしまった。
「わっ!!」
「だから、言っただろう。こうなると」
「うん、そうだね」
ジークはそう言って立ち上がると、俺の頬にキスをした。
それと同時に、母が居間の扉を開く。
「ただいま! あら、リッちゃん、顔が真っ赤。どうしたの?」
「あ、や……こ、これは……!」
ジークのふいうちのキスに、あたふたしているなんて母には言えない。
「わかった。お庭で仕事をしていたんでしょう? 寒かったもんねえ」
たしかに、母もアルノーも頬が真っ赤だ。
「一緒に暖炉に当たろう」
「そ、そうですね」
母の勘違いのおかげで、なんとか事なきを得る。
あとでジークに聞いたのだけれど、帰宅した母の歩く歩数を数え、いつ居間に入ってくるかわかった上でキスをしたらしい。
これは、軍人時代の癖なのだとか。
二重の意味で、ドキドキさせられた。
はじめての、ジークのいたずらである。
ジークリンデさんったら、おちゃめなんだから。
コミックPASH!様にて、最新話が公開されております。
ドジっこ軍人エメリヒ登場編です。
http://comicpash.jp/hokuokizoku/
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どうか、作品が長く続くために、お手に取っていただけたら嬉しく思います。
特典などは、活動報告にて!
そして、こちらの更新も今回で一区切りにしようかなと考えております。
また、何か思いつきましたら活動報告でお知らせしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
これまで、ありがとうございました。