コミカライズ記念ショートストーリー『夫婦の甘い賭け』
どこまでも広がる白銀の世界へ、今日もジークと二人狩猟に出かける。
ライフルを担ぎ、迷いのない足取りで進む彼女は今日も勇ましい。
そのたくましい背中に縋りつき、私を抱きしめて! と叫びたくなる。
なんだろう。ジークといると、乙女チックになってしまうのだ。
それくらい、彼女は男前で──。
しかし、ジークの魅力はそれだけではない。
時折見せてくれるはにかんだ表情や、照れ屋なところ、奥ゆかしいところは、たまらなく可愛い。
他にもたくさん素敵なところはあるけれど、言葉にするとしたらいくら時間があっても足りないだろう。
そんなジークと結婚できたのは、奇跡のようなことだと思っている。
◇◇◇
今日もジークと並んで座り、猟犬が鹿を追ってくるのをじっと待つ。
「そういえばさ、ジーク」
「なんだ?」
ずっと気になっていた疑問を、ぶつけてみた。
「ジークって、辺境の雪男って呼ばれていた俺のこと、まったく警戒しないで結婚話を受けてくれたよね?」
「ああ」
「なんとも思わなかったの?」
「私が聞いたのは、単なる噂ばかりだからな」
ジーク曰く──噂というのは人から人へと伝わるにつれて脚色され、真実は薄れていく。
そのため、話半分に聞いていると。
「だから、リツが本当に辺境の雪男かどうか、自分の目で見て確かめてから、判断しようと思っていた」
「ジ、ジークリンデ!」
男前な考え方に、胸がキュン! とする。
「そ、それで、実際はどうだったの?」
「初めて見た時は、リツの姿が幻かと思ったんだ」
「え、なんで?」
「童話に出てくる雪妖精に見えて。私は妖精が見えてしまうほど疲れているのだと」
「ああ~……」
ジークの疲労により、幻の妖精扱いされる俺っていったい……。
まあ、そのおかげでジークと目が合って、結婚しようと思ったのだけれど。
「そのあと、リツから話を聞いて、悪い奴じゃないと思ったことは覚えている」
「そっか」
ジークの第一印象はそこまで悪いものではなかったらしい。
まあ、そうでないと、結婚話を受けてくれるわけないけれど。
「あの日の判断は、咄嗟のこととはいえ、よくその場で受けたものだなと、自分のことながら驚いている」
しかし、ジークは家族に結婚しろと言われていたが、焦ったりやけっぱちになったりして決めたことではないと言う。
「強いて言ったら、勘だろうか?」
「俺のことは良く知らないけれど大丈夫だろう、みたいな?」
「そうだな」
勘で結婚決めちゃうとか。豪快すぎて惚れ直してしまう。
ジークの男気溢れる判断に感謝をしなければならない。
やっぱり大好きだと言おうとしたけれど、猟犬の鳴き声が聞こえた。
銃を構えようとするジークを手で制す。
「どうした?」
「賭けをしよう、ジークリンデ」
その内容は、実にシンプルだ。
「俺が鹿を仕留めることができたら、ジークにキスしてもいい? もしも仕留めることができなかったら、なんでも願いを叶えるから」
「……」
また、しようもないことを言っていると、ジークの険しい表情が語っている。
彼女の灰色の目が鋭くなっていたが、負けない。
「お願い!」
「仕留めることが、できたらな。外したら、覚えておけよ」
「了解!」
だんだんと、鹿を追いかける犬の鳴き声が近くなる。
ライフルを構え──射程距離に鹿が入ってきたのを確認すると、トリガーを思いっきり引いた。
パァン! と、乾いた銃声が鳴った。
鹿は首から血を吹き出し、倒れ込む。
先に動いたのはジークだ。ナイフを握りしめ、止めを刺しに行く。
鮮やかな手つきで頸動脈を切り裂くと、鹿はすぐに息絶えた。
それを確認すると軽やかな足取りでジークに近づく。
「ジーク!」
そのままジークを抱きしめ、顔を覗き込む。
すでに、顔は真っ赤になっていた。
本当に可愛すぎる。
「ねえ、鹿を仕留めたから、ジークにキスしてもいいよね?」
「……ああ。約束は守る」
本人の許可も下りたので、遠慮なくジークにキスをした。
じわじわと幸せな気分で満たされる。
それにしても、この寒い中、ジークの唇は温かい。
しっかりとご褒美を堪能させてもらった。
と、このように、ジークとの結婚生活は順調そのものだ。
楽しい毎日は、いつまでも続く。
北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らしのコミカライズが決定しました。
本日より、comicPASH!様のサイトにて、一話が掲載されております。
漫画を担当していただくのは、白樺鹿夜先生です。
素敵な仕上がりとなっておりますので、読んでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
http://comicpash.jp
http://comicpash.jp/hokuokizoku/
※繋がらない場合は、時間をおいてからアクセスしていただければと思いますm(__)m