腐死者の謎について
腐死者を次々と魔法で燃やし、勇者様が金ぴか剣で解体して動けなくさせてから燃やす、という戦法で倒していく。
燃え広がりそうな火は、イッヌがおしっこで消してくれた。
イッヌの優秀過ぎる消火活動に対していろいろ引っかかったものの、今は気にしている場合ではなかった。
「クソ! 倒しても倒しても、新しい腐死者が這いでてくるぞ!」
「なぜ、ここまで大量発生しているのでしょうか?」
新たに一体、土の中から腐死者が這いでてきた。魔法を展開させようとした瞬間、勇者様が待ったをかける。
「おい、魔法使い。見てみろ。あの腐死者は先日リーフ村で見かけた村人そっくりだ!」
「そうですか?」
「ああ。ホクロの位置まで一致している!」
一瞬すれ違っただけなのに、よく特徴を覚えていたものだ。
「どうして村人と腐死者がそっくりなのでしょうか……?」
「思い出したぞ!!」
「な、何をですか?」
魔法学校の授業で習った、腐死者についての情報がふいに甦ってきたと言う。
「腐死者はもともと、〝人〟なのだ!」
「なんですって!?」
腐死者はずっと、人型モンスターだと思っていた。
まさか、人から生まれたものだったなんて……。
「ということは、あの村人はあのあと、死んでしまって腐死者になった、というわけですか?」
「そうとしか思えない!」
ならば、これまで倒してきた腐死者は死した村人と冒険者なのだろう。
「人がどうやって、腐死者になると言うのですか?」
「知らん!!」
授業で教師が説明していたようだが、眠っていたのでまったく覚えていないと言う。
「そ、そういえば、リーフ村に学者の先生がいると村長様が言っていたので、もしかしたら腐死者について何か知っているかもしれません」
「そうだな。まずは、腐死者を倒してしまおうか」
「はい」
腐死者は雑草のように無限に這いでてくるわけではなく、一時間ほど続けて倒したところ、墓地は平和を取り戻した。
「勇者様、村長様に報告に行ってから、学者の先生の家に行きます?」
「いや、村長もさすがに眠っているだろう。報告は明日でもいい」
学者の先生は夜型人間だと村長が言っていたので、そのまま向かう。
勇者様は緊急事態だと言って、ノックもせずに学者の先生の家に入っていった。
「あの、勇者様、ちょっと!」
「魔法使い、イッヌ、あとに続け!」
学者の先生の家は二階建てで、一歩足を踏み入れた瞬間、鼻がよじれるような悪臭が漂う。
勇者様はすぐさま鼻をハンカチで覆い、イッヌは涙目で『きゃうん!』と悲鳴のような鳴き声をあげていた。
「な、なんだこれは! 何か実験でもしているのか?」
この酸っぱいような、吐き気をもよおすような臭いには覚えがあった。
「勇者様、これは死体が腐った臭いです」
「なんだと!?」
家の中に魔石灯はなく、近くにあった角灯を見るからに、古きよき蝋燭の灯りで暮らしていたようだ。
手元にある魔石灯を頼りに、部屋を探った。
臭いの出所は二階だった。慎重な足取りで上がっていく。
階段の先には寝室があり、そこにひとりの男性が横たわっていた。
魔石灯で照らした瞬間、ギョッとしてしまう。
「こ、これは――!?」
「死んでいるな」
学者の先生は白目を剥いた状態で、寝台の上で息絶えていた。
腐敗具合からして、死んでからかなりの日数が経っているのだろう。
「いったい何があったのでしょうか?」
「待て、この特徴は……」
勇者様が言いかけた瞬間、ぞわっと鳥肌が立つ。
『きゅん!!』
イッヌが私達の背後に向かって警戒するように鳴く。
振り返った瞬間、何者かに首を掴まれた。
「うぐ!!」
全身を黒衣で包んだ謎の存在が、私の首を絞めていた。
手にしていた魔石灯で頭部を殴りつけたものの、怯む様子はなかった。
魔石灯は手から離れ、床の上を転がっていく。
灯りのその先に、勇者様が倒れていた。どうやら私よりも先にやられていたらしい。
首を掴んだ手が黒い炎を発し、息ができなくなる。
私は手にしていた聖石を男の口に勢いよく突っ込み――そのまま意識を失う。
あっけないほど、パーティーは全滅してしまった。
◇◇◇
またしても、私は教会で目覚めた。今回は勇者様が先に意識を回復させたようだが、何やら考え込むような様子を見せていた。
「勇者様……」
「ああ、魔法使い、目覚めたか」
「ええ」
今回もイッヌが私達を教会まで連れてきてくれたらしい。
優秀なイッヌは勇者様にぴったりくっつき、甘えた様子を見せていた。
いつになく神妙な勇者様に、疑問を投げかける。
「勇者様、私達は何に襲われて死んでしまったのでしょうか?」
「わからない。ただ、あれが腐死者でないことはたしかだ」
あれがモンスターなのか、それとも人だったかも判別できなかった。
「それよりも、気になることがある」
「なんですか?」
「学者の家にあった遺体と、ギルドの受付係の面差しがよく似ていたのだ」
そういえば、学者の先生の顔を見た途端、何か言おうとしていた。その前に襲われてしまったのだが。
腐敗が進んでいる遺体だったが、よく気付いたなと思う。
「あの遺体の者と、ギルドの受付係は血縁関係で間違いない。さらに、遺体の年齢から推測するに、親子ではなく、祖父と孫の関係なのだろう。すなわち……」
「遺体は学者の先生ではなく、村長様だったのですか?」
勇者様はこくりと頷く。
「では、これまで私達に対応していた村長は――」
「偽物だったのだろうな」
それに気付いた瞬間、孫娘が作ったセーターが小さかった理由に気付くこととなった。
私達が接していた村長は別人なので、寸法が合わなくて当然なのである。
また、孫娘と聞いたときも、少し不思議そうに聞き返していた。
振り返ってみると、不審な部分は多々あった。
それだけでなく、勇者様は初めて会ったときから村長に対して思う部分があったらしい。
「初対面のときも、丁寧過ぎる言葉遣いに違和感を覚えていたのだ」
発音がきれいで、この辺の人達の喋り方とは思えなかったと言う。
「では、私達を殺したのは――」
「おそらく村に移り住んでいたという、学者だろう」
聞いた瞬間、ゾッとしてしまう。よそ者が村長に成り代わっていたというわけだ。
敵:???
死因:才能〝呪いの手〟による呪われ死
概要:〝呪いの手〟・・・高い確率で触れた相手を死に誘う、高位の呪い