水のオーブ
オーブ。
それは三人の聖霊達がメモリーリングを隠した場所を開く鍵となる物。
その場所は結界が張ってあり肉眼では見えない。
もちろん魔王も分からない。
だから魔王はオーブがシトラス達の手に渡る前に、持ち主である聖霊を倒しに行かせたのだ。
ただそれは失敗した。
一つ目のオーブは今、シトラスの手の中に。
青い輝きを放つオーブ。
「これが……」
「はい。私の力を秘めた水のオーブです」
「ありがとう、アクアリーゼ」
「いえ。私こそ助けて頂いて、ありがとうございました」
「それにしても、スーリアって強いな」
「それは魔族ですからね。ご主人様」
ルナンが魔族と魔物の違いを説明する。
へえ。
シトラス達は知らなかった事。
ただなんとなくモンスターと戦って来たけど、そんな違いがあるとは思ってなかった。
しかしこれからは勇者として、敵の事をきちんと分かっておかなきゃ。
ルナンが仲間になって、本当に良かった。
「ルナン。もう一つ教えてもらっていいかしら? 以前スーリアに会った時、彼女は魔王の幹部だと言っていたけど、その魔族っていうのがみんな幹部なのかしら?」
「いいえティナ様。幹部というのはビッグスリーと言われる方々だけです」
「そのビッグスリーって?」
「ドラモス様。スーリア様。そしてもうお一方は、あなた方も良くご存知の方です」
「まさか、ガルディス……?」
「はい。ガルディス様は勇者であられながら、魔王の幹部であるビッグスリーに選出されました。ドラモス様、スーリア様とは同等のお立場です。しかし、これは魔王の罠であると、わたくしは考えています」
「罠?」
「はい。ガルディス様は勇者の力をお持ちです。その力を利用して、もうお一方の勇者であるご主人様を狙わせたら……」
「まさか、同士討ち!?」
「それを魔王は狙っているのだと考えます。ガルディス様はご主人様を倒すふりをして、実は導いていらっしゃいましたが、今は……」
「魔王に疑いをかけられている。まさか、ガルディスがさらわれたのって……」
「最初から、そのつもりだったのかもしれませんね」
「そんな……、何て事……」
ティナは魔王の企みに気づかなかった事を後悔した。
あの時、ガルディスを助けられれば。
ルナンが励ます。
「ティナ様。泣いている暇はありませんよ。ガルディス様をお助けする為にも、わたくし達は早く三つのオーブを手に入れませんと」
「ルナン……」
「わたくしも辛いのです。ティナ様。いいえ、ご主人様やジェニファー様、ロック様もです。しかし、ガルディス様がこのような事で諦めるでしょうか?」
「……!!」
「ガルディス様は覚悟を持って、わたくしを城から逃がして下さったのです。ですから、わたくし達も立ち止まってはいられません。次にお会いした時に、笑顔でいられるように」
「分かったよ、ルナン。前に進もう!」
「はい!」
ティナは涙を拭いた。
アクアリーゼが言う。
「行くのですね。勇者」
「ええ。アクアリーゼ、ありがとう」
「旅の無事を、祈っています。また会いましょう」
「ええ。あなたもお元気で」
手を振って、海底神殿を後にした。
手に入れた、一つ目のオーブ。
シトラスは大事に、それをポケットの中にしまった。
船は膜が張られたままその場所にあった。
全員乗り込むと、ゆっくりと浮かぶ。
海上に向かって。
「船で海に潜れるなんて、何という幸せでしょう」
「そうね〜。アクアリーゼの膜のおかげで濡れなくていいし、塩でベタベタしないし」
「前にモンスターに海に引きずり込まれた時、大変だったもんな、ジェニファー」
「あらロック。そんな事があったの?」
「はいティナさん。ジェニファーが海に落ちて、シトラスすげー青い顔してました」
「そ、そりゃあ心配だろ。助かったから良かったものの、そうじゃなかったら、俺……」
「ん? なあに、シトラス」
「な、何でもない。あの後お前隠れるようにシャワー浴びに行っただろ。裸見れなくて、残念だったな〜」
「あ〜ら、ごめんなさいね〜」
ジェニファーは別の事を期待していたのだが、やっぱりと言っていいほど誤魔化された。
まあ、それでも心配してくれたんだ。
待ってみようって決めたから、ジェニファーは軽く受け流した。
船は海上に着く。
その間にルナンは、人の姿に戻っていた。
膜が消えて船が波に乗ると、岩礁地帯がまた現れた。
「海の国が、隠されましたね」
「また行く事ができるさルナン。みんなでいつか会いに戻ろう」
「はい、ご主人様」
約束通り、あのお婆さんがいる大陸へ。
ドアを開けると、相変わらず無愛想な感じだったが、シトラス達を確認した途端、態度が変わった。
「おお勇者、戻って来たか。わしは待ちくたびれたぞ」
「すみません、お婆さん」
「いいから、中にお入り。お茶を用意しよう」
狭い部屋も変わらないな。
ルナンが手伝い、お茶が運ばれる。
水のオーブを、お婆さんに渡した。
「おお。これが水のオーブか。初めて見たわい。ほら、勇者、返すぞ」
「あ、はい。ところで……。お婆さんのお名前は?」
「こりゃ済まん。言ってなかったか。わしはギーバというのじゃ。近しい者は、ギー婆さんと呼ぶがの。お前達も、そう呼んで構わんぞ」
「分かりました。それではギー婆さん。俺達はこれからどうすれば?」
「うむ。次の聖霊のいる場所はこの大陸の果てじゃ。が、まずは疲れたろ? 少し休むといい」
「この大陸の果てですか」
地図を見ると、この大陸は長い。
ギー婆さんの言う通り、休んだ方がいいかも。
ギー婆さんは、よいしょっと腰を上げる。
「ギーバさん。どちらに行かれますか?」
「ん? あそこに小さな山があるじゃろ。そこに美味しい山菜があるのじゃ。お前達の夕食に、採って来ようと思っての」
「それならば、わたくし達が参ります。ギーバさんは、こちらでお待ち下さい」
「そうか。じゃ、そうして貰おうか。最近腰が痛くての」
「ご無理をなさらないで下さいませ。この山菜ですね」
ルナンはギー婆さんから山菜の絵をもらう。
「では、行って参ります」
「暗くなるから、気をつけての」
「はい」
シトラス達は山に入る。
一ヶ所に固まっているより、広範囲の方が探しやすい。
なるべく遠くに行かないようにと、仲間達は別れた。
一人になったシトラス。
「さぁ、ここを探すか」
その時、目の前に出て来た人物。
シトラスを見つけ、ニッと笑う。
「あんたは……」
いきなり、襲われた。