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怪しい道具屋

 店内は意外にも南国風の植木や花が飾ってあり、店主の女性もいたって普通の雰囲気の人だった。

 どこを見ても、怪しい道具屋という感じは無い。

 売られている物も薬草や毒消しなど、他の道具屋とほぼ同じ商品。どこが怪しいんだろう。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「あ、いや……。俺達〈怪しい道具屋〉という看板を見て、何か変わった物があるのかなぁと……」


 店主の女性は、フフフと笑った。


「ございますよ。ただ、当店の商品は少々値が張ります。その為に、裏メニューとなっております」

「裏メニュー?」

「はい。初めてのお客様は、皆さん戸惑われます。しかし説明を聞くと、納得して帰っていかれますよ」

「そうなんですか。実際に買われた方は?」

「見て下さる方は多いのですが、買って下さる方は少ないですね」

「あ、ごめんなさい」

「いいえ。よろしければ、ご覧になられますか?」

「はい! ぜひ」

「では、こちらへ」


 女性が、テントの奥に案内する。

 このテント、縦に広がっている大きなテントだと思ったらこういう事か。

 二つ繋がっていたんだ。


「わあ」


 こちらは、さっきまでと違って何かミステリアス。

 ランプの明かりじゃなく、キャンドルの明かりが瓶の中から洩れている。


「では、最初はこちらですね。愚者の剣です」

「ん?」


 柄に蛇が模されている。

 しかしそれより驚いたのは、鞘の方が長いという事。

 剣の長さは鞘の半分しかない。


「剣と鞘の長さが違うので、意表をつくのにいいかもしれません。作られた方も意図して愚者の剣と名付けたみたいですよ」

「あの、ちょっと理解しきれないのですが」

「つまりですね。批判が来るだろうと予想して、自分を卑下する意味で名付けたそうなんです。この剣はこういうデザインですから」

「そうなんですね」

「はい。それでいかがですか? 剣士様」


 女性はシトラスの目を見た。

 シトラスは悪いと思いつつ断る。


「分かりました。それでは次の商品です」


 大して悲しむふうでもなく、淡々と品を定める。

 慣れているのか。


「こちらはいかがでしょう。ギリギリの水着です」

「おお〜〜!」


 シトラスとロックが興奮した。

 本当、紐みたいな水着。

 これをジェニファー、ティナさんが着たら……。

 が、甘い夢は期待外れに終わった。


「すみません。あたし、そんな水着着れません」

「ええ。悪いけど。それにアタシの魅力は、充分にこの子達に伝わってるし」

「そうですか。残念です。それではこちらを」


 パサッ。

 表紙にセクシーな女性の絵が描かれた本。


「ムフフな本でございます」

「駄目〜! そんなの、駄目に決まってるでしょう!」


 ジェニファーは目くじらを立ててすぐさま断った。

 シトラスとロックは、もちろん悔しい。

 女性はう〜んという顔をする。

 悩んでいるらしい。


「なかなか、厳しい目をお持ちですね。分かりました。それでは、とっておきの商品をお出ししましょう。こちらでございます」


 亀の甲羅のような、小さな宝石が二つ。

 色は薄い光沢のある茶色。

 それを見た途端、ティナが大きな声を出した。


「これは、まさか……!」

「お分かりになりますか?」

「ええ。タリスマンね」

「タリスマン?」


 ジェニファーは疑問をぶつけた。

 店主の女性が説明する。


「魔力を増幅させてくれるという、不思議な力を持つ宝石になります。とても珍しい物で、数も少ないそうです」

「ええ、そうよ。そんな貴重な宝石に、こんな所でお目にかかれるなんて……」


 ティナの興奮が、シトラス達にも伝わって来る。

 魔法使いとして、これは是非手に入れたいと、ジェニファーも思った。


「シトラス、あの……」

「どうした? ジェニファー」

「あたし、この宝石欲しい」

「あら偶然ねジェニファー。アタシもよ」


 女性が嬉しそうにニッコリ笑った。


「ありがとうございます。二つ合わせて10万コインになります。と、言いたい所ですが、特別に8万コインで提供させていただきます。よろしいでしょうか?」

「あ、はい……、8万……」


 コインの袋を出して数える。

 微妙な所だ。

 これからの旅の事を考えると、二つは無理っぽい。

 ティナが残念そうに言う。


「ゴメンなさい。コインを見たんだけど、一つしか買えないみたい。どうか、この子に」


 しかし女性は気づいていた。

 ティナが諦め切れていない事に。


「けれど、あなたにも必要なのですよね。でしたらこう致しましょう。この砂漠のどこかで、レアモンスターである光る鳥を見たという話をたまに聞きます。その鳥の羽をお持ち下さいましたら、このタリスマンを二つ差し上げましょう」

「本当ですか?」

「はい。レアモンスターの羽も、タリスマン同様珍しい物です。引き換えるのに、問題は無いでしょう」


 一気にティナの瞳が輝いた。


「ありがとうございます! アタシ、探して来ます!」

「はい! 実はわたくしもレアモンスターの羽に興味があったのです。噂を聞くだけで、見た事は無かったですから。楽しみにしております」


 ティナはシトラス達を連れ砂漠へと飛び出した。

 タリスマンが手に入るかも。

 魔法を使う者として、一度は現物を見て見たかった。

 夢のよう、こんな場所で会えるなんて。

 さぁ、出て来いレアモンスター。

 ティナとジェニファーに、気合いが入った。












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