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次の日は日曜日。

さすがに、二日連続でダンジョンに潜るのはやめた方がいいということで、アモンは早速鍛えていた。


早朝、朝食前に剣を振り、朝食後、冒険者ギルドの屋外訓練場を、午前中いっぱい走る。

もちろん、まだそれほど体力があるわけではないため、ゆっくりと走る。

だが、決して止まることなく、歩くこともあるが、とりあえず動き続ける。


昔、涼がロンドの森でやっていたことでもあった。


一番若手の、やる気のある姿は、先輩たちにも良い影響を与えた。

アモンの走っている姿を見て、ニルスとエトも走り始めたのである。

もっとも、体力のない神官のエトはすぐに脱落していたが……。


ちなみに、その中に涼の姿は無かった。

涼の底無しの体力を見たら、逆にやる気を削ぐかもしれない!

などと仲間思いなことを考えたわけではなく、単に、他にやりたいことがあっただけである。

それは、錬金術について調べることであった。




ルンの街には、南北に一つずつ、大きな図書館がある。

冒険者ギルドにほど近い南の図書館は、一般向けの、入門者向けの書籍が多い。

涼はそう聞いていたので、まずは南図書館に行ってみることにした。


図書館前は大きな広場になっており、隣接してかなり大きめな本屋もあった。

(貸し出しが禁止されている図書館だからこその商売。図書館で本を探して、隣りの本屋で買う……地球では考えられない商売のスタイル)

図書館の入場料は二千フロリン。

何も問題を起こさなければ、出る時に半分の千フロリンが返ってくる。



その図書館は、非常に大きかった。

かつて地球にいた頃に連れて行ってもらった、ドーム球場並みの広さである。

「これは……一人で探すのは無理な気が」


一度カウンターに戻り、錬金術の入門書関連の場所を聞いた。

「どうぞこちらへ」

そういうと、カウンター付近で仕事をしていた司書らしき女性が、案内してくれることになった。

カウンターから、だいぶ遠い場所にあるらしい。


ゆうに五分以上は歩き、ようやく着くことが出来た。


「全くの初心者ということであれば、この本と、こちらの本を最初に読まれることをお勧めします。あと、初級のレシピとしては……これがよろしいかと思います」

そういうと、女性司書は涼に三冊の本を探し出してくれた。


『錬金術の初歩の初歩』

『初めての錬金術』

『錬金術 最初のレシピ集』

著者はいずれも、ニール・アンダーセンとなっていた。


涼は礼を言うと、空いている席にその三冊を持って移動した。

空いている席と言っても、利用者はかなり少ない。

「千フロリン」というお金は、庶民にとって決して安い金額ではないのである。



-全ての錬金術に通じること、それは、必ず魔法陣か魔法式を使用するということである

-魔法陣を描く材質に制限はない

-描き終えた魔法陣に魔力を通して、初めて魔法陣が起動する

-魔石と魔法陣との相性は非常に良く、連結することによって人からの魔力供給を受けることなく、魔法陣が稼働可能となる


などなど。

ちなみに『魔法式』に関しては、上級以上で使うため、まだこの段階では必要ないらしい。



『錬金術の初歩の初歩』と『初めての錬金術』は、初心者向けということで、錬金術がなぜ可能になるのか、どんなことが得意でどんなことが苦手なのか、そういう事を理屈面から説明していた。


『錬金術 最初のレシピ集』はレシピ集ということもあって、錬金術に使える簡単な魔法陣も載っていた。

レシピ集の後ろの方には、いくつかのポーション用のレシピと魔法陣も載っているのである。

ただし注意書きも載っていた。

『魔力切れを起こす可能性が高いため、熟練魔法使い未満は執り行わないこと』

(ああ、だからポーションの自作をする人が少ないのか……)


熟練魔法使いというのが、どれほどの魔力を持っているのか涼は知らないが、ポーション一本の作成に相当の魔力が必要となるのであれば、冒険者としては「買った方がはやい」となるのは当然なのかもしれなかった。

(まあ錬金術の練習としては、必要ないものを作るよりは、ダンジョンとかで必要になるものを作るほうがいいよね)


他にも、解毒剤のレシピが載っていたのは嬉しかった。

ポーションも、製造方法は数種類あるらしいのだが、中にはダンジョンで簡単に揃う材料で作れるレシピも載っている。

(地上では手に入れにくいけど、ダンジョンなら5階層までで揃う材料とかある。これはラッキーかも)


すでに涼の中では、図書館を出たら隣りの本屋で、『錬金術 最初のレシピ集』を買うことは決定事項となっていた。

だが、せっかく二千フロリン払って図書館に入ったのだから、もう少し調べておきたい。



結局、涼が図書館を出たのはそれから二時間後であった。

そのまま隣りの本屋に行き、『錬金術 最初のレシピ集』が売っているのを見つける。


だが……お値段が十万フロリン……金貨十枚……。


(高い……いや、本だからこれくらいはするものなのかな……でもどちらにしろ手持ちのお金では足りない)

困ったものだ、どうしようと考えていると、ふと思いつくことがあった。

(ギルドマスターは、一個は領主が買い上げるだろうから、その分のお金はすぐに入金されると言っていた……もう、入っているんじゃないのかな)


そう思うと、涼は冒険者ギルドに向かって歩いた。わずか一ブロック北に行くだけである。



結論から言うと、ちょっとびっくりするくらいのお金が涼の口座には入っていた。

ワイバーン魔石の売上金である。

かなりの間、お金のために働く必要は無さそうだ。


お金のためにあくせく働く必要が無い……なんと素晴らしい響きであろうか!

好きなことをして生きていていい……ワイバーン万歳!


とりあえず、金貨15枚ほどを持って、涼は本屋に向かった。

だが、ギルドを出たところで気づいた。

(あれ? なんか暗くない?)


太陽は出ている。

出ているが……少しずつ暗くなっている気がする。

(日食ってやつか……)

通りにいるルンの街の人々も、少し不安そうに空を見上げていた。



涼が図書館前広場に着くと、太陽は完全に月に隠れた。



そして、世界の景色が変わった。


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