0047
「それでは、リョウとアモンの講座終了を祝して、乾杯!」
ギルド併設の食堂では、宿舎十号室四人による祝賀会が開かれていた。
とはいうものの、食堂はアルコールは提供していないし、持ち込みも不可である。
そもそも、アモンはまだ未成年の為、アルコールは飲めない。
というわけで、四人ともジュースであった。
ニルスと涼は、まるでリンゴなリンドージュース、エトとアモンはオレンジジュース。
どちらも身体にいいため、男女ともに冒険者には結構人気である。
「それにしても、講座の見学で潜った初ダンジョンでソルジャーアントを狩ってくるとは……やるねぇ、二人とも」
エトが、ニコニコしながら言った。
「いえ、私はとどめを刺しただけで、リョウさんが動きを止めてくれたお陰です」
アモンが、山賊焼きの様な鳥肉を片手に照れている。
「アモンが、きちんと刃を立てて斬ったから倒せたのであって、卑下する必要は全くないですよ」
リョウは、牛肉らしきもののステーキを食べながらアモンを褒める。
「いやあ、どっちにしても、魔石を採れたのはめでたいからいいじゃねえか」
『両手に』骨付き鳥モモ肉を持ち、ガハハと豪快に笑うニルス。
ギルド食堂の料理は美味い。
そして量も多い。
冒険者だけではなく、ルンの街の住民も普通に利用できる施設だが、利用者のメインが冒険者であるために、やはり基本的な量が多いのだ。
「うちのパーティーは、明日、明後日はお休みなんだけど、二人はどうするの?」
それぞれ料理を食べ終え、おかわりをしたジュースを飲みながら、エトが涼とアモンに聞いた。
今日は金曜の夜。土日は、ニルスたちのパーティーはお休みなのである。
「私は、ちょっと潜ってみたいのですけど……一人だとちょっと……。野良パーティーとかを探した方がいいですかね?」
アモンは今日の感覚を忘れたくないこともあって、やる気であった。
「アモン、やる気だな! やっぱ前衛はそうじゃないとな!」
剣士のニルスは、剣士見習い的なアモンを、同じ前衛として気にかけている様であった。
「気持ちはわかるけど、野良は当たり外れが多いからなあ……」
エトは、野良パーティーはお勧めしなかった。
「なら、僕と潜りますか? 第三層くらいまで、ちょっと見てみようと思っているので」
「ホントですか! ぜひ、お願いします!」
涼の提案に、アモンは一も二も無く乗った。
「ちょっと、第一層に蟻がいたのが気になるんですよね」
「ああ、本来、一層はコウモリだもんな。そういえば、俺らも一層でソルジャーアントに出くわしたこと、あったな?」
「ええ、ありましたね。ギルドに聞いたら、ここ半年ほど、たまに一層や二層でソルジャーアントとの遭遇の報告があるみたいですよ」
エトが、ギルドに確認していたみたいだ。
「何で、いないはずの蟻がいるんでしょうねぇ」
「それは、蟻が縦穴を掘って一層までやってきているからだ」
「!」
突然の乱入者に、ニルス、エト、アモンは驚いて、声の方を見た。
「アベル、ベテランさんが新人に絡むのは感心しませんねぇ」
涼だけは、アベルが近付いてきた気配に気づいていたために驚くことはなかった。
「絡むって……新人の疑問に、的確に答えただけだろうが」
渋い顔をしながら溜息をつくアベル。
「お前さんたちがリョウのルームメイトだろ? 俺はアベル。リョウは強さは悪くないが、性格に難があるから構ってやってくれな」
「アベル、喧嘩なら買いますよ?」
挑発するアベル。受けて立つ涼。
もちろん、ただじゃれ合っているだけである。
「あ、アベルって……赤き剣のアベルさんですよね! 自分、剣士やってます、ニルスです。まだルンに出て来たばかりのF級冒険者ですが、憧れてます! もしよければ握手してもらえると……」
カチンコチンに緊張したニルスが、立ち上がって直立不動の姿勢でアベルに自己紹介をした。
「おう、もちろんだ」
そういうと、アベルはニルスの手を握って言った。
「頑張れよ。だけど、絶対無理はするなよ。冒険者は、そしてダンジョンでは特に、生き残ることが一番重要だからな」
(こういうことをさらっと言えて、さらっと握手できるのが、アベルの人気が高い理由なんだろうな)
涼はそう思った。
「それにしても、どうしてこんな時間に、アベルがギルドにいるのですか?」
もう時刻は、午後八時近いはずだ。
ギルドへの報告は、六時くらいまでに終わらせ、その後は家に帰るなり飲みに出かけるなりするのが、冒険者なのである。
そう考えると、八時近くにギルドにいる理由は、あまり想像できない。
「ああ、依頼された案件がかなり長引いてな。ようやく、さっき戻ってこれたわけだ」
アベルがそこまで言ったところで、アベルの後ろから声が響いた。
「あ~! アベルこんなところにいた!」
アベルのパーティーメンバー魔法使いのリンであった。
「アベル、ギルドマスターへの報告があると言ったでしょ。逃げないで」
神官のリーヒャが、その後ろからさらに声をかけた。
「いや、ほら、ベテランとして新人くんたちに色々と指南を……」
「リョウたち、ごめんね。アベルをもらっていくね。ウォーレン、アベルを抱えて」
リンが言うと、盾使いのウォーレンが、軽々とアベルを肩に担ぎ上げる。
アベルも身長一九〇センチほどと、かなりの高身長なのだが、二メートルを超え、まさに巨漢と言えるウォーレンにかかると「軽々と」持ち上げられてしまうのだ。
「いや、まて、こらウォーレン、自分で歩くから。ちょ、降ろせってば」
その光景を見て、周りからも笑い声が上がる。
「リョウ、ごめんなさいね。私たちギルドマスターに報告しないといけないから、アベルをもらっていくわね」
相変わらず、鈴の鳴るような声のリーヒャ。
「ええ、もちろんです。赤き剣のリーダーですから、煮るなり焼くなりお好きに」
「リョウ、この裏切り者! だからウォーレン、降ろせってば」
「なんか、すごい光景でしたね……」
アモンがとても冷静な一言を発した。
「ああ、リーヒャさん、まさに天使……」
エトが何か呟いている。
「アベルさん、まじカッコいいっす」
ニルスが世迷いごとを言っている。
今のどこに、カッコいい要素があったのか……。